2021 Fiscal Year Research-status Report
新教育運動期における自然保護運動の昂揚と環境教育の起源に関する比較史的研究
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20K02529
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Research Institution | Kwansei Gakuin University |
Principal Investigator |
宮本 健市郎 関西学院大学, 教育学部, 教授 (50229887)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
渡邊 隆信 神戸大学, 人間発達環境学研究科, 教授 (30294268)
山崎 洋子 武庫川女子大学, 言語文化研究所, 嘱託研究員 (40311823)
山名 淳 東京大学, 大学院情報学環・学際情報学府, 教授 (80240050)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 新教育 / 自然保護 / 環境教育 / 自然学習 / 初等理科教育 |
Outline of Annual Research Achievements |
アメリカ、ドイツ、イギリスの19世紀末から20世紀前半にかけての自然保護運動の展開を、4人の担当者がそれぞれたしかめた。アメリカについては、ソーローやエマソンの超絶主義の思想が、自然への畏敬や自然を愛する心情を育てることを含んでいた。その影響を強く受けて、コーネル大学のベイリやコムストックが中心となって、自然学習や初等理科の授業を開発していた。彼らは、自然をよく観察することと同時に、自然への畏敬の念をもつことを重視しており、自然保護の思想と強い関連をもっていた。ところが、1920年代になると、自然学習運動が衰退し、科学教育が普及していった。このとき、自然保護の思想よりも、人間が自然を利用しようとする動きが強まったことが推測される。まだ実証はできていないが、この時期の自然保護運動を、現代の環境教育の直接的起源とみることには無理があり、その後の紆余曲折を解明することが課題になりそうである。 イギリスの自然保護運動も、自然学習論の展開を中心にたどることができる。大都市化や工業化が進んだために、その弊害を自覚していたミドルクラスの人々は、郊外に住宅を求め、園芸書を学んで、自然のとのかかわりを重視するようになっていた。彼らが、環境学習や地域学習を推進したのである。イギリスでは、多様な意図が混在していた自然学習であったが、それが後の環境教育に発展したと思われる。これを確かめることは今後の課題である。 ドイツについては、エコロジー思想の起源を探ったものの、教育とのつながりを示すものを確認することができなかった。しかし、自然と人間が一体化した共同体を形成しようとした教育実践はいくつかあり、それらについて、あらためて検討を進めていく予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
二つの理由がある。ひとつは、コロナ禍のなかで、海外調査ができず、一次資料の収集が困難であったため、分析を予定していた学校や教育実践を具体的に調べることができなかったためである。 もうひとつは、環境教育については、思っていた以上に、現代では様々な研究が蓄積されており、その全体的な研究動向を確かめるのが容易でなかった。地球温暖化や地震の多発など、緊急に取り組むべき課題に直面していて、新しい研究も次々に生み出されているのである。これらの諸研究と、20世紀初頭の新教育運動における自然保護の思想や教育実践は、直接につながっているわけではなかった。自然と人間のふれあいを重視する教育実践があったとはいえ、現代における自然保護や環境教育とは発想が違うことが見えてきた。すなわち、新教育の子ども中心主義と、自然保護運動との間には、矛盾する考え方がかなりあると思われる。この問題を整理することは、思っていた以上に困難であった。人物を絞るか、対象となる学校を絞るなどの、方向転換をせざるを得なかった。
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Strategy for Future Research Activity |
アメリカについては、自然学習(Nature Study Movement)の運動を中心に見ていく。とくに、二人の人物に焦点をあてる。ひとりは、進歩主義教育の起源のひとりであったフランシス・パーカーの下で初等理科の授業入発に取り組んだジャックマンである。彼は、デューイが去ったあとに、シカゴ大学付属実験学校を取り仕切っていた。その実践の中から、子どもが自然や環境を重視する思想を読み取ることができると思われる。。もうひとりは、コーネル大学のコムストックである。彼女は、小学校の理科授業の教材開発に取り組んでいた。自然学習協会でも活躍していたので、その仕事の内容は、協会の機関誌等にかなり頻繁に紹介されている。現地調査は難しいとしても、この時期の資料は公刊されたものも多く、蒐集することは可能と思われる。 イギリスについては、1902年以後教育院による『教師の手引書』が刊行されている。これが、イギリスの新教育に大きな示唆になったと思われるので、そのなかの自然学習に関連する箇所を分析することを手掛かりとして、自然保護や環境教育への発展につながったかを確認していく予定である。 ドイツについては、20世紀初頭の生活改革運動に取り組んだ人物を中心に思想と実践を分析していく予定である。1921年に、画家のハインリッヒ・フォーゲラーが設立したバルケンホフ労作学校等をとりあげて、分析を進める。ドイツロマン主義の思想を受け継いでおり、人間と自然の一体化を目指した実践であったと思われるが、不明なところも多く、その具体的な姿を明らかにしていく予定である。
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Causes of Carryover |
海外調査ができないままになっており、旅費使用予定額が持ち越されている。2022年度に海外渡航が可能になれば、海外旅費(または国内移動旅費)として使用する。 2022年度配分額は、当初の予定通りに、国内旅費と史料の購入および複写等に使用する。
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