2021 Fiscal Year Research-status Report
Reconsideration of W.Dilthey's Pedagogy
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20K02535
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Research Institution | Osaka Kyoiku University |
Principal Investigator |
瀬戸口 昌也 大阪教育大学, 総合教育系学校教育部門, 教授 (00263997)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | ディルタイ / 精神科学 / 解釈学 / ドイツ教育学 / 教育科学 / 科学性 / 哲学 / 陶冶 |
Outline of Annual Research Achievements |
令和3年度の研究実績は、大きく分けると1,ディルタイの「科学的教育学」の現代的意義についてと、2,現代ドイツ教育学の「科学性」の理解について、以下のような成果を上げることができた。 1,ディルタイの「科学的教育学」の現代的意義について ディルタイは「生の哲学」の立場から、教育学の「普遍妥当性」をテーマとしてその「哲学的基礎づけ」を試みて、体系的教育学を構想した。この試みによってディルタイは、20世紀以降のドイツ教育学に対して、①教育学の「科学性」(学問的性格)と「体系性」、②教育学の知識の「客観性」、③教育学の理論と実践との関係、④そして教育と陶冶の関係について、一定の指標を与えたのである。この指標は、のちに「精神科学的教育学」の理論に多様な形で継承されていく。しかしその過程で、ディルタイが本来意図していた「(教育学を含む)精神諸科学の哲学的基礎づけ」の構想は、「精神科学的教育学」の内部からも外部からも十分に検証されないまま、未完成の課題として残されて現在に至っている。 2,現代ドイツ教育学の「科学性」の理解について 現代ドイツ教育学/教育科学の文献の分析から、21世紀ドイツ教育学において「科学性」の問題は以下の3つの傾向を持つことが明らかになった。①経験科学的あるいは実証主義的方法を取ることにより、科学性を担保しようとする傾向。②20世紀に「終焉」したとされる「精神科学的教育学」に再度「科学性」の手がかりを求めようとする傾向。③精神科学的教育学の源流であるディルタイの教育学に、科学性の意義を探っていく傾向。このように現代ドイツ教育学/教育科学においては、「科学性」についての議論と哲学的反省は、20世紀以降、統一的で共通の理解は得られていない状況にある
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
「令和3年度の計画」では、「現代教育学における科学性(学問的性格)とは何か」というテーマについて、ディルタイの科学的で体系的な教育学の構想から、以下の観点でアプローチすることを計画していた。①ディルタイの「科学的教育学」の構想について、19世紀当時のギムナジウム改革の状況や、当時のプロイセンの政治状況や教育行政の動向、学問的傾向や宗教的傾向から明らかにする。②19世紀ドイツの教育改革の背景となっている「人文主義」と「人間性」の概念について、歴史的体系的考察を行う。③ディルタイの「精神諸科学の哲学的基礎 づけ」の根本原理であり、ディルタイの学問論の確信となっている「歴史的意識」について、批判的考察を行う。 ①については、ディルタイの「科学的教育学」の構想が、プロイセンの国民教育論と密接に結びついていること、その理論的背景としてシュライアーマッハーの国家論の影響があることを明らかにした。②については、ディルタイの著作「ジューフェルン」論を基に、ディルタイが当時の新人文主義の影響を強く受けていたことを明らかにした。そこからの新たな課題として、個性と普遍的人間性との関係が、教育と陶冶によってどのように結び付けられ、19世紀以降のドイツ教育学において理論化され実践化されていったのかを研究する課題が生じた。③については、ディルタイの「歴史的意識」の背景であり原理となっているものが、ディルタイ特有の歴史的な「作用連関」の概念であることを明らかにした。今後はこの「作用連関」の概念が、ディルタイ以降の教育学理論(特に「精神科学的教育学」)にどのように継承されていったのかを跡づけて、その現代的意義を現代の解釈学的哲学の観点から検証する必要がある。 ①から③までの研究成果については、ディルタイ研究会で、2回発表するとともに、大学の研究紀要と研究雑誌に論文として投稿した。
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Strategy for Future Research Activity |
「現在までの進捗状況」を踏まえて、ディルタイの教育学を再考することによって、現代教育学における「科学性」の問題についての研究を進めていくためには、次の2つの課題を解決する必要がある。 1.ディルタイが「精神諸科学の哲学的基礎づけ」の構想の下に試みた「科学的な教育学」の理論的基礎づけと体系化は、20世紀以降のドイツの教育学/教育科学にどのように継承されていったのか。この課題を考察するための観点は、次の2つである。①20世紀ドイツの「精神科学的教育学」において、ディルタイの教育学がどのように継承されていったのか。②21世紀のドイツ教育学/教育科学が、その「科学性」についてどのような自己理解を行っているのか 。 2.ディルタイが体系的教育学の実践的課題とした、「個性理解と国民教育と一般的な人間陶冶」の関係は、20世紀以降のドイツの教育学/教育科学にどのように継承されていったのか。この課題を考察するための観点は、次の2つである。 ①「個性理解と国民教育と一般的な人間陶冶」の関係の土台となっている19世紀の「新人文主義」の理念は、20世紀以降のドイツの教育にどのような影響を与えていったのか。②21世紀ドイツの教育学/教育科学において、「教育」研究と「陶冶(Bildung)」研究は、どのように関係づけられているのか。 以上の2つの課題を4つの観点から分析するためには、20世紀以降の教育学/教育科学の理論に関する主要な文献を広く渉猟するとともに、現代のドイツ教育学/教育科学の最新の動向を把握しておく必要がある。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた主たる原因として、令和2年度と同様に、令和3年度もすべての期間を通して新型コロナウイルスの感染拡大により、国内外の人的移動が困難になったことが挙げられる。予定としては、研究代表者はディルタイの遺稿を収集しているドイツのアーカイブや図書館等を訪問したり、ドイツの教育学/教育科学関係の学会や研究会に参加したりする計画であったが、新型コロナウイルスの感染拡大防止のため、海外渡航による調査研究は事実上不可能となった。それゆえ海外調査のための旅費の支出が無くなった。また、国内においても、ディルタイや解釈学の研究者から組織される研究会「ディルタイ・サークル」を定期的に対面で開催することが不可能になった。 このような事情から、資料収集・研究会開催のために使用する予定であった旅費・人件費の支出が無くなったことが、次年度使用が生じた主たる理由である。 令和4年度は、現在の状況から鑑みて、政府や自治体の新型コロナ感染拡大防止策が徐々に緩和されるものと思われる。海外渡航が可能となれば、旅費を増額して調査研究を複数回実施し、また、海外渡航が困難な場合は、人件費・謝金を増額して、国内外の参加者によるシンポジウム(オンライン形式と対面を含む)を開催することを考えている。
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