2021 Fiscal Year Research-status Report
日本における「教養」概念の成立と展開-Bildung概念の受容の観点から
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20K02538
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Research Institution | Kagawa University |
Principal Investigator |
櫻井 佳樹 香川大学, 教育学部, 教授 (80187096)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 教養 / Bildung / 和辻哲郎 / ニーチェ |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、日本における「教養」概念の成立と展開を明らかにするとともに、「教養」概念の可能性について考察することである。その際ドイツにおけるBildung概念の受容を観点とする。 2021年度では、日本における「教養」概念の成立過程に関する研究として、和辻哲郎に取り組んだ。和辻哲郎は旧制一高を経て東京帝国大学を卒業し、『ニーチェ研究』(1913)を著した後、『偶像再興』(1918)を発表している。後者は大正教養主義の代表作の一つとみなされている。本年度は、青年和辻のニーチェ理解が、どのようなものであったか、そのことが和辻の「教養」概念にいかなる影響を与えたかについて研究した。24歳で出版した和辻の『ニーチェ研究』は、その後の日本を代表とする代表的哲学者の記念すべき第一作であるとともに、ニーチェ研究それ自体の先駆けでもあった。ニーチェの思想と生涯を序論で描いた後、本論では、ニーチェの主著の一つ『権力への意志』を中心に考察している。ニーチェは真の哲学者として、同時代のキリスト教的価値や道徳・文化の徹底的な批判(破壊)を試み、来るべき未来へ向けて、新たな人間像(超人)や世界の姿(永遠回帰)を構想した。ニーチェは『反時代的考察』の中で、普仏戦争の勝利に沸く1870年代ドイツ文化の欺瞞を「俗物教養」と呼び、「教育者としてのショーペンハウアー」を「自己陶冶」Selbstbildungのあるべき姿と捉えた。和辻は『偶像再興』の「すべての芽を培え」において、「教養」は「さまざまの精神的の芽を培養する」と述べているが、それは学問のみならず、「血肉に食い入る体験」も含むという。そして、その「教養」が、「真のあるはずの所へ」、つまり「真の自己」に至ると述べている。この「教養」理解は、ニーチェの生成と存在、個性と運命を論じたニーチェの最晩年の自伝『この人を見よ』(1908)の影響だと言える。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2020年度に計画していたThomas Fuhr教授(フライブルク教育大学)の訪問や国立ベルリン図書館等の訪問による資料調査が、新型コロナウイルスの世界的蔓延のため実施できず、2021年度に延期していたが、2021年度も同じ理由で実現できなかった。所属大学による海外渡航禁止が継続されていたためである。
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Strategy for Future Research Activity |
2021年度に開始した和辻哲郎研究を継続し、進展させる。特に和辻の『ニーチェ研究』を対象として取り上げ、和辻のニーチェ理解と「Bildung教養」理解が、日本における「教養」概念の成立にいかなる影響を与えたかについて考察する。和辻が自己の「教養」概念の構築に際してニーチェ哲学(とりわけ文化批判、社会批判を通して「真の自己」を模索しようとした哲学)を手掛かりに、明治以来の日本文化のあるべき姿を模索し、「教養」概念を構築しようとした和辻との親和性の解明は興味深い。そこには文化社会の「変容」transformation ともいうべきパラダイムシフトが見いだせるだろう。日本の「教養」概念成立期において、「教養(文化)批判」が差し込まれていたのである。そうした成果を「和辻哲郎の『教養』概念におけるニーチェ思想の受容」(仮)としてまとめ、2022年12月開催予定の中国四国教育学会(香川大学)で発表する。 その研究に目途を付けた後、日本における教養概念の成立過程に関する研究として、もう一人の大正教養主義の代表的論者・阿部次郎に取り組む。彼の主著『三太郎の日記』(1914)は、戦前戦後を通して、旧制高校生、大学生の必読書の一つになった。彼の思想形成において、また著作において、ドイツ的教養Bildungが、いかにどのように反映したのかについて研究を開始する。 なお、2021年度から2022年度へ繰り越したドイツへの旅費を、日本並びにドイツにおける新型コロナウイルスの蔓延状況やウクライナ情勢などの渡航可能性を判断することによって執行する。そのことによってThomas Fuhr教授(フライブルク教育大学)や国立ベルリン図書館等への訪問による(2021年度に実現できなかった)資料調査を実施する。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルスの世界及び日本国内における蔓延状況の継続のため、2021年度に計画していたドイツへの渡航費ならびに国内における資料収集のための旅費を執行することができず、2022年度に繰り越した。2022年度のコロナの収束状況やワクチンの接種状況およびウクライナ情勢などを勘案しつつ、2022年度は旅行計画を実現したい。
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