2020 Fiscal Year Research-status Report
Qualitative research about "the independence activities support" at the special high school having difficult students
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20K02568
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Research Institution | Chuo University |
Principal Investigator |
古賀 正義 中央大学, 文学部, 教授 (90178244)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 自立活動支援 / 特色高校 / コミュニケーション能力の変容 / デジタルネイティブ世代 / 青少年育成指導者 / 内閉化した関係性 / スクールソーシャルワーカー / 質的調査 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、不登校や非行あるいは発達障害等の傾向を呈する困難を抱えた生徒たちが集まる「特色高校」(都内ではエンカレッジスクールなどと呼称)において、将来の進路形成や社会参加を可能にする「自立活動」の実践やその支援がどのようにして取り組まれており、その効用・影響が当事者たる生徒あるいは教師や保護者などにいかに認識されているかを、学校組織・支援評価などにかかわる各種調査によりながら明らかにしようとするものである。 特に研究初年度の本年度は、コロナ禍によって、実地調査を進めることがきわめて難しかったため、研究費の使用を次年度に振り替えつつ、可能な範囲の資料収集・調査とその基盤整備を進めることに方向転換して実施した。 高校現場では、コロナ禍でICT・オンライン利用が一層拡大し、社会関係の欠落などから生活習慣形成の困難や仲間関係の歪みがより問題視されている。対人コミュニケーションの阻害を解消するため、通級型の「自立活動支援」のあり方も広範で柔軟に展開されてきている。他方で、内閣府の若者の社会関係に関する全国調査にも参加・協力し、全国的に見ても地域の先輩やネット仲間など広い他者との関係性が学校外に広げることが難しくなっており、内閉化した関係性への依存が一層顕著で、困難を抱える若者への援助の情報提供や相談体制の整備が難しくなっていることも確認できた。 そこで、実施済み高校アンケート調査の再分析や若者調査からの困難生徒・若者層の抽出分析などにも労力を割き、デジタルネイティブ世代の若者の対人資源の問題性に接近することができた。それをいくつかの論考にまとめて発表するとともに、個別事例を含む調査成果を各種の刊行資料や青少年育成指導者向けの研修会(内閣府や神奈川県)等で広く公表するとともに、さらに調査研究を焦点化し、コロナ禍でも実施可能な研究スタイルを模索していく努力を続けてきている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究初年度として、前回科研費調査からの基礎研究を踏まえつつ、対象生徒への継続的なアンケート調査の分析・整理、および生徒や教師、スクールソーシャルワーカー等へのインタビューによるフォローアップ分析・整理に時間を割いた。 同時に、より広い対象の若者層から困難生徒の実態を社会学的に把握する試みにも挑んだ。具体的には、生徒の自己意識や進路意識、対人関係などについて、日台比較調査の知見をふまえつつ、内閣府の全国若者調査にも参画し、「自立活動支援」にかかわる学校現場の課題をこれまでと異なる広い視点から理解することを試みた。 また、低ランクの特色高校の管理職とも連絡を取り合い、随時生徒の現状を聞き取ることによって、地域社会のネットワークの弱さや家族関係の内閉的な力などを背景としたスキル形成の問題や具体的な指導実践の課題にも理解を深めた。特に、地方地域でのパネル調査分析を、個に応じた社会参加の課題改善に取り組む現場の実践的な動きと重ねて理解することを試みた。実際「社会性伸長」の実態調査を県教育委員会などが数年来継続的に実施しており、このデータも本調査の分析と関連付けて検討することが可能になった。現場の分析に学校の効用だけでなく、地域の特性や対人ネットワークについても接近することが可能となる見込みである。 継続的な研究によって、残された予算を活用するデータ収集・分析の課題がより明瞭になってきた。すでに国立教育政策研究所・生徒指導チームに成果の一部をプレゼンしたが、今後「社会情動的スキル学習」の実態とその波及効果を分析し公表する方法を検討し、具体的な特色高校での調査・分析へと進みたい。そのための対象への働きかけも順次行っており、雑誌論文や研究会、青少年育成指導者向け研修会等での公表を含めて、次年度には一層よりよい成果が見込めると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
特色高校の「自立活動」とその支援がいかなる形で実践され始めており、どの側面・要素で当事者(教師や保護者を含む)の認識や評価が高いのか、現場でのアンケート・聞き取り調査の結果などから分析することを次年度以降進めていきたい。特に、調査参画した内閣府全国若者調査によれば、困難な若者に地域社会の相談・支援機関など専門家の援助が活用されるようになってきている反面、家庭や仲間を媒介とした身近な社会関係の資源が充足されないという訴えが強まっているという指摘があり、学校を介した社会参加の資源の獲得が一層重要と理解される。 とはいえ、通級型の「自立活動」支援は、困難経験があってもラベリングを警戒して参加しない生徒や、社会的スキルがすでにあっても保護者の意向で参加する生徒など、対象となる生徒層が確定していない。また、プログラムも、委託されたNPOのマニュアルをそのまま踏襲するなど、個への配慮が充分でないケースが散見される。こうした質的な援助のバラつきが生じる社会的組織的な背景を理解しつつ、具体的な実践の評価や分析をすることが必要となる。コロナ禍ではあるが、適宜、観察やインタビューなどに挑み、個別な特色校での分析を積み重ねたいと考える。 この点で、東京のチャレンジスクールや高知の特色校を対象として、実態調査のスタートラインがみいだせており、基礎的な資料の取集も進んでいるので、繰り越した予算を活用しながら調査の実施と、関連資料の分析に取り組みたい。特に、2年程前まで通級型支援のなかった高校現場のリアクションを拾いながら、この方法の定着過程を分析することは時宜を得ている。さらに現場レベルでの「自立体験・学習」の実態を把握し、同時に一部成果を発表の論考や研修会などで公表していきたいと考えている。
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Causes of Carryover |
本研究初年度は、コロナ禍がきわめて深刻であり、調査活動や発表活動などに影響があり、研究費の利用を大幅に変更し、次年度調査研究への繰り越しを進めていくこととせざるをえなかった。これに伴い、既存のPCや周辺機器の再配置、あるいは資料の図書の整理作業など基礎的なインフラの確認・充実をして、次年度に対応する体制をとった。ここに、大幅な残額が生じる余地が生まれたが、最終年までを想定した予算配分になっており、大きな問題はない。 同時に、コロナ禍のさらなる延長に備え、既存のインタビュー調査の文字お越しやデータの再分析経費なども繰り越した経費で実施可能であるように配分している。結果、予算の執行計画がたびたび変更されていくことになったが、非常時の事態であり、やむおえないことであると考えている。十分に有効な予算活用を今後も心がけていく予定である。なお、研究代表者が同一でテーマも近接する他の科研費調査(2020年度完結予定)が再延長となったため、この予算は適宜活用でき、別課題ではあるが、一部の資料収集や再分析も行えていることは報告しておきたい。本研究には予算執行の遅れはほとんど研究上の支障がなく、むしろ一層の調査研究の関連資料の集積や調査の焦点化が進んでいることは重要であるといえる。
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Research Products
(7 results)