2020 Fiscal Year Research-status Report
移民第二世代の教育主体化と「新しい公共性」創出の条件に関する研究
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20K02588
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Research Institution | Doshisha University |
Principal Investigator |
児島 明 同志社大学, 社会学部, 教授 (90366956)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 移民第二世代 / 教育主体化 / 新しい公共性 |
Outline of Annual Research Achievements |
ブラジル系移民第二世代へのインタビュー調査を踏まえながら、第二世代の教育主体化の過程について考察を進めた。具体的には、日本語習得と大学進学という二つの過程に注目し、両過程での資源獲得とそれが教育主体化に及ぼす影響について明らかにした。 第一に、第二世代は主に学校で日本語を習得していくが、それは往々にして同化のための努力としてなされ、エスニック・コミュニティから距離をとるという行為をともなっていた。第二世代がそのような努力を払って日本語を習得したとしても正統な日本語話者からの排除はついてまわり、日本語を習得すればするほど、日常生活のさまざまな場面において自らの日本語能力が正当に評価されない不条理に不満や憤りを感じることになっていた。このように、日本語を習得しても周辺化の圧力から逃れられぬ現実に対して、第二世代はただ受動的にそれに甘んじているわけではなく、日本語を使用する文脈を自らの経験に即して新たに創出しようとしていた。その意味で、第二世代は日本語教育のもう一人の担い手として不可欠の存在であると言える。 第二に、移民第二世代が大学で学び活動することの意味を、公立大学に在学中の日系ブラジル人男子学生の生活史をたどりながら検討した。そこで明らかになったのは、対象者にとっての大学での学びや活動の意味は、時間軸と空間軸が交差するなかで多層的に生成されているということであった。これらの知見は、一方で、移民第二世代のエンパワメントに大学での学びが果たす役割とその可能性を大学関係者がより明確に認識する必要があること、他方で、移民第二世代が大学入学までに経験してきた固有の経験が、大学の学びや活動の場をどのように豊かにしていくかという視点を大学関係者がもつことが重要であることを示唆するものである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究の主要な目的の一つは、移民第二世代が成長のなかで自らのマイノリティ経験をさまざまに解釈・再解釈しながら再資源化し、次世代を育成するための文化資本として認識し、活用していく過程を描きだすことである。この点については、ブラジル系移民第二世代へのライフストーリー・インタビューの結果を踏まえながら、日本語習得や大学進学をめぐる資源獲得過程の分析を通じて考察を深めつつある。日本語習得や大学進学を、学校における資源形成過程としてだけでなく、地域における教育支援活動への参加や日常生活のなかで生じる、ときとして葛藤や対立を含んださまざまな接触とそれへの対応を通じてなされる資源形成過程として理解することの重要性を明らかにできたことは、現時点での成果といえるだろう。 こうした資源形成過程を家族形成や地域生活とも関連づけながら、さらに多層的に解明していくことが本研究で継続的に追究されるべき課題といえる。それに加えて、そのような資源形成が、教育の領域における「新しい公共性」の創出にいかなる意味をもちうるのかを、教育支援現場でのフィールドワークを通じて具体的に検討していくことが本研究のもう一つの課題である。しかしながら、新型コロナウイルス感染拡大の影響により、教育支援現場でのフィールドワークや対面的なインタビューの実施がきわめて困難な状況にある。とりわけ、主要なフィールドとして予定していた他県の教育支援現場を訪問することが難しい状況にあるため、当初の予定からすれば、研究の進捗状況はやや遅れていると言わざるをえない。オンラインでの調査の可能性等も探りながら研究を進めていく必要がある。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の進め方については、新型コロナウイルス感染拡大の状況次第というところはあるが、概ね以下のように考えている。 まず、移民第二世代の教育主体化過程を多角的に解明するためのライフストーリー・インタビューを継続して実施する。とりわけ、自らが親として次世代育成に携わっていたり、地域の教育支援活動に支援者としてかかわっている第二世代へのインタビューを増やしていきたい。ただし、対面的なインタビューが困難である場合が想定されるので、オンラインでのインタビューの可能性も探っていく。 次に、教育支援現場でのフィールドワークについては、新型コロナウイルス感染拡大の影響により教育支援活動そのものが制約を余儀なくされるなか、参与観察等についてはかなりの困難が予想される。そうした状況下でも継続してフィールドワークの可能性を探っていきたい。その一方で、コロナ禍は教育支援活動にどのような影響を及ぼしているのか、そして、その状況のもとで活動の担い手としての移民第二世代はどのような実践をおこなっているのかは、「新しい公共性」の創出を検討するうえできわめて重要な問いといえる。コロナ禍ゆえに浮かびあがるこうした問いを研究推進のためのよい機会ととらえ、オンライン調査の可能性も探りながら研究を進めていく予定である。
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Causes of Carryover |
本研究では、日本各地に居住するブラジル系を中心とした移民第二世代へのライフストーリー・インタビューおよび第二世代が携わる様々な次世代育成実践の現場での参与観察を主な研究手法として設定している。しかしながら、新型コロナウイルス感染の全国的な拡大により、初年度は他都道府県への移動が極めて困難であったため、予定していた旅費の執行ができなかった。また、対面でのインタビューも困難であったため、インタビュー後の反訳に対する予算執行も滞ってしまっている。 しかしながら、緊急事態宣言やワクチン接種の効果により、次年度は当初予定していた上記の調査を計画に即して実施できる可能性は十分にあるため、あくまでも新型コロナウイルス感染の拡大状況をみながらではあるが、対面でのインタビューや教育実践現場でのフィールドワークを精力的に進めていく予定である。
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