2022 Fiscal Year Research-status Report
移民第二世代の教育主体化と「新しい公共性」創出の条件に関する研究
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20K02588
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Research Institution | Doshisha University |
Principal Investigator |
児島 明 同志社大学, 社会学部, 教授 (90366956)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 移民第二世代 / 教育主体化 / 新しい公共性 |
Outline of Annual Research Achievements |
移民第二世代の教育主体化およびそれ基づく教育実践がどのような過程を経て新たな価値や場を創出するのかを解明すべく、移民の子どもとして生きてきた自らの経験を、成人した第二世代がどのように意味づけ、次世代育成の意識や実践に反映させているかを、当事者の視点から理解するための調査を進めている。具体的には、日本在住のブラジル系移民第二世代に対して対面あるいはオンラインによるライフストーリー・インタビューを実施し、自らの育ちの経験を振り返ってもらうと同時に、次世代を「育てる」意識がどのように形成され、実践に結びついているかを検討してきた。調査を進める過程で、次世代育成をめぐる社会環境やエスニック・ネットワークの活用の文脈にコロナ禍が及ぼす影響を考慮することが不可欠であることが明らかになったため、パンデミックの状況下で次世代育成実践が抱えることになる課題の理解も視野に入れながら、次世代育成実践と社会環境の相互作用の理解を試みている。 上記の目的に照らして在日ブラジル人向けの学習塾を経営するAさん(在日ブラジル人第二世代の女性、27歳)の事例は示唆に富む。Aさんは自らがマイノリティとして育ってきた経験を踏まえて、在日外国人をサポートする仕事をしたいと考えるようになり、同胞向けの学習塾を始めた。当初は対面指導を中心に運営していたが、コロナ禍で対面方式の限界に直面したことを契機として地理的制約のないオンライン指導に将来性を見出し、事業の方向性を大幅に転換した。コロナ禍で休校が続くなか、子どもの教育に不安を抱く保護者からの問い合わせが塾の所在地から遠く離れた地域、とりわけ非集住地域から多く届いたことで、それまで気づかずにいた潜在的なニーズを認識したことが大きなきっかけであった。コロナ禍の影響によるエスニック・ネットワークの境界の変容に柔軟に対処しながら次世代育成実践が展開される例として興味深い。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究課題の申請当時には予想できなかった新型コロナウイルス感染の拡大とその長期化によって移動に大きな制約が生じ、移民第二世代の教育支援現場でのフィールドワークや当事者へのインタビューが滞ってきたのが、研究にやや遅れが生じていることの最大の原因である。 しかしながら、そうした厳しい状況が徐々に緩和されてきたことにより、2022年度は、新型コロナウイルス感染状況に配慮しつつ、在日ブラジル系移民第二世代へのライフストーリー・インタビューと、比較的多くのブラジル系移民が暮らす山陰地方B市での教育支援活動に関するフィールドワークを重ねることができたことは大きな収穫であった。 とりわけ前者については、日本各地に在住する20代・30代の12名(男性6名、女性6名)に対して対面あるいはオンラインでのインタビューを実施し、教育、仕事、家族、子育て、社会関係などをめぐる過去と現状およびコロナ禍により影響を受けた諸側面について詳細な話を聞くことができた。対象者は、次世代育成の意識や実践に対してコロナ禍が及ぼす影響を、そうした意識や実践の変容の過程とあわせて検討したいということもあり、基本的にはコロナ禍以前にライフストーリー・インタビューに協力してくれた人のなかから選定している。ただし、次世代育成実践に何らかのかたちで実際に携わる第二世代へのアプローチはさほど容易ではないことから、新規協力者の可能性も探りながら進めているところである。 他方、山陰地方B市でのフィールドワークは2021度から継続しているものである。ブラジルを中心とした外国にルーツをもつ子どもや青年の支援団体における参与観察や聴き取り調査からは、職業機会が限定された地方都市において家族が抱える困難やそうした地域特有のコロナ禍の影響の仕方が浮かびあがる。第二世代が生きる場の特性についてさらに調査を継続し、理解を深める必要がある。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の推進方策については、いまだ新型コロナウイルス感染拡大の状況次第というところはあるが、概ね以下のように考えている。 まず、移民第二世代の教育主体化過程と次世代育成実践との関連を、コロナ禍が社会環境に及ぼした影響を視野に入れながら多角的に解明するためのライフストーリー・インタビューを継続して実施する。その際に課題となるのが、研究課題にふさわしい対象者をどのように探すかであるが、これについては、過去のインタビュー協力者のネットワークやフィールドワークを継続中のB市で築いてきたネットワークから助力を得ながら機縁法的に増やしていけると考えている。また、インタビューは基本的に対面での実施を予定しているが、子育て中の第二世代の場合は外出がままならないことも多く、むしろ外出を要さないオンラインでのインタビューの方が好都合ということもあるため、状況に応じてオンラインでのインタビューも積極的に取り入れながら調査を進めていきたい。 それと並行して、B市において移民第二世代が暮らす環境を多角的かつ詳細に把握するためのフィールドワークを継続する。B市における教育施策や職業機会の実情を把握するだけでなく、移民の増加を契機として地域のなかに徐々に構築されてきた諸々のネットワークの存在と機能を整理することにより、移民第二世代が自らの生活を組織化していくにあたって利用しうる諸資源のありようを探る。その際には、そうした諸々のネットワークや資源がコロナ禍によってどのような影響を受けたかについても検討し、第二世代の教育観の形成や教育実践の展開について動態的な把握を試みたい。 以上の調査結果を統合的し、最終的な報告書を作成する。
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Causes of Carryover |
本研究課題においては、ブラジル系を中心とした移民第二世代へのライフストーリー・インタビュー、第二世代が暮らす地域の特性を把握するためのフィールドワーク、さらにはかれらが携わるさまざまな次世代育成実践の現場での参与観察を主な研究手法として設定している。しかしながら、新型コロナウイルス感染の拡大と長期化により、他県への移動及び継続的な訪問が大幅に制限されてしまったため、予定していた旅費の執行ができなかった。結果として実施できたインタビューの数も限定的であったため、インタビュー後の反訳に対する予算執行も滞ってしまっている。 しかしながら、徐々に移動の制約も緩やかになり、次年度は当初予定していた上記の調査を計画に則して実施できる可能性は十分にあるため、あくまでも新型コロナウイルス感染の拡大状況をみながらではあるが、対面でのインタビューや対象地域でのフィールドワークを精力的に進めていく予定である。
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