2023 Fiscal Year Research-status Report
思考表現スタイルの日米仏伊比較ー<論理的>に考え書く事の理論と実証研究ー
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20K02604
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
渡邉 雅子 名古屋大学, 教育発達科学研究科, 教授 (20312209)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 論理的思考 / 合理的行動 / 思考表現スタイル / 四カ国比較 / 教育文化 / 作文・小論文教育 / 合理性の比較研究 / 教育と文化の比較モデル |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、普遍的で世界共通と受けとめられている論理と論理的思考が実は文化的に構築されている過程とその主な型を日本、アメリカ、イラン、フランスの学校で教えられ頻用されている作文/小論文の型(構造)に焦点を当てて実証的に明らかにするとともに、論理と合理性の四つの型を教育文化のモデルの構築から特定することである。学校が伝える主流文化を教育「目的(価値対技術)」と目的達成の「手段(経験的知識対体系的知識)」のそれぞれの二項対立の指標の組み合わせから四つの原理を特定して教育文化のモデルを構築した。 経済原理(アメリカ)では「効率性」、政治原理(フランス)では「十分な審議」、法技術原理(イラン)では「真偽の決定」、社会原理(日本)では「共感」が主導的な観点となり、各国の書き方と思考の型が作られている。教育目的として技術を掲げる経済原理と法技術原理においては、「結果重視」で決まった結論に向けて目的論的に議論を進める。それに対して、価値を目的として掲げる政治原理と社会原理は、議論の「過程を重視」してその過程からそれぞれの原理の価値観を学ぶ。作文の型は思考の型を導くのに対して歴史教育の語りは過去の解釈の方法を通してものごとの起こるパターンを示し、推論の型を形成する。推論の型は、行為の合理化の方法と行為の評価基準を教える。経済原理と法技術原理では歴史を目的論的に捉え、「因果」を過去と未来の解釈の方法するのに対して、政治原理と社会原理ではものごとの「関係性」を重視する。 モデルの構築により各原理に特徴的な論理と合理性が明らかになるのみならず、原理間の関係も明らかになり、ある原理の視点に立つと「なぜ」そして「どのように」他の原理が非論理的、非合理的に見えるのかを解明した点に本研究の意義が認められる。それによって論理と思考法という見えないがゆえに深刻な文化衝突の原因を解明した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2023年は日本、アメリカ、フランス、イランの作文/小論文の型と論理の分析とその教育法、および歴史教育における時間意識と因果の概念の分析、大学入試問題の分析を通した四カ国の能力観の調査結果をまとめ、それを教育文化の四つの原理としてモデル化を行った。これらの調査とモデル化・理論化の結果を学術書として一冊の本にまとめ、2023年9月に岩波書店より『論理的思考の文化的基盤―四つの思考表現スタイル』を上梓した。これをもって調査、分析、モデル化、成果発表の研究一連の手続きが完了した。本書は、日本教育新聞の書評や学会誌の書評、インターネットの書評で取り上げられ初版刊行三ヶ月後には二刷が発行された。
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Strategy for Future Research Activity |
学術書刊行の後には、四つの残された仕事に取り組んでいる。一つ目は、翻訳してもらったイランの作文教科書全12冊を研究の資料として残すための監修の作業である。二つ目は、四カ国のモデルをもとに教育の提言を行う本の執筆、三つ目は、四カ国の研究調査の結果を広く社会に還元すべく、論理的思考についての大学の教養の教科書の執筆、四つ目は日本語で出版した学術書の英語の翻訳本の出版である。教養の教科書の執筆には、実地の調査結果に加え論理学、レトリック、哲学、科学の論理についての文献調査が必要となりそれが終了していよいよ執筆ができる段階になったところである。
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Causes of Carryover |
コロナ禍でイランへの調査が困難になった代替調査として、イランの作文教科書の翻訳をイラン教育省から許可を取り行った。翻訳したイランの作文教科書を研究資料として残すための監修の作業補助を依頼している森田豊子氏がイランの日本大使館勤務が決まりテヘランに赴任したため、2024年12月以降でないとその作業に取り組めないため。また、本研究の成果発表として、新たに三冊の本の執筆を行うことになったが、そのための追加調査が必要になったため。
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