2020 Fiscal Year Research-status Report
A Study on Regional Harmonization of Secondary Education in Oceania
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20K02605
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Research Institution | Mie University |
Principal Investigator |
奥田 久春 三重大学, 教養教育院, 特任講師(教育担当) (30535373)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 中等教育修了資格 / 校内評価 / 教育借用理論 / 地域的調和化 / 共通性とローカル化 / 地域機関 / 各国の相互作用的な学び合い |
Outline of Annual Research Achievements |
大洋州各国で広く行われている中等教育修了資格試験での「校内評価」について、ニュージーランドで行われるようになった背景、大洋州の小島嶼国に借用されるようになった歴史的背景と変遷過程など、これまでの研究成果をもとに整理、考察を行った。また、大洋州諸国の「校内評価」の共通性を「借用」という観点から捉える理論的な枠組みを考察した。 まず、ニュージーランドで行われていた「校内評価」がSPBEA(南太平洋教育評価委員会)の実施するPSSC(太平洋後期中等教育修了資格)において借用されていったことから、それぞれの「校内評価」の比較を行うことで特徴を分析した。更にPSSCが2013年に各国独自の試験に切り替えられたのを機会として、各国がどのように「校内評価」を踏襲したのかをPSSCと各国の試験とを比較分析を行い、地域的な共通性と独自のローカル化を抽出していった。共通性については生徒がリサーチやプロジェクトなどを行うという校内評価の方法であること、また学外試験と両方を採用している点を読み取ることができた。各国独自のローカル化については、評価基準や学外試験との評価の割合が各国とも異なる方向に変更している点であった。 また、理論的枠組みでは、Steiner-Khamisi(2012)が示す教育借用理論研究の動向から地域的調和化の概念を整理し、二国間の教育借用だけでなく、地域機関の役割や地域での相互の学び合いという概念があることを考察した。 こうした研究結果を日本教育学会79回大会にて「大洋州諸国の中等教育における校内評価の共通性」として、またオセアニア教育学会24回大会にて「大洋州島嶼国における中等教育の地域的共通性」として発表した。原稿としては『三重大学教養教育院紀要』第6号にて「教育借用理論を用いた地域的調和化に関する一考察」として発表した。またOCIESでも口頭共同発表を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
やや遅れている一番の理由は、新型コロナウィルスの拡大に伴い、海外での調査ができなかったことである。そのために最新の情報収集ができず、これまでに収集した資料の分析に留まっている。例えばサモアだけでなくトンガなどでの「校内評価」の基準やローカル化の実態、教育関係省や学校での取り組みや意識についての調査の開始が遅れている。 しかしながらその分、これまでの各国の「校内評価」の内容の分析や、理論的枠組みについて整理、考察を深める時間に充てることができた。これを基礎に比較分析の枠組みを精緻なものとし、教育借用理論での地域的調和化の理論的な位置づけを行った。特に各国のローカル化として進められている校内評価と学外試験との評価の割合が異なってきている点について、比較の観点から分析することができた。また、SOLOタキソノミーを用いた校内評価の基準についても教育評価理論の視点から考察することができた。また地域機関の役割、各国の相互の学び合いという視点を軸に地域的調和化について論じていく理論的枠組みを考察できた。またOceania Comparative and International Education Society (OCIES)のオンラインでの2020 Virtual Conferenceにてサモア国立大学の研究者と"A Study of Localization and Globalization of Secondary Education in Samoa"を共同発表する機会があり、その際に各国の研究者と交流の時間を持つことで、今後の調査や情報収集に繋げた。 こうした研究成果を生かしつつ、各国での調査を進めていくことが今後の課題となるが、まずはオンラインであっても引き続き各国の情報を入手するように努めていく予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
新型コロナ感染症の収束を望みつつ、海外調査が困難な期間においてはインターネットやメール、オンラインツールを利用して、情報収集を進めていく。 まず、サモアに加えてトンガなどでの「校内評価」の基準やローカル化の変遷過程、政策意図、制度的実態、教育関係省や学校での取り組みや意識などの実状について調査を開始する。これまでのサモアでの調査の成果を生かし、調査項目を精緻なものとしつつ効率的に調査を進める。具体的には教育関係省への調査として、「校内評価」の基準に関する政策意図や制度の実態について政策資料の分析やインタビュー調査を行っていく。得られたデータから各国間の比較分析を進める。また、教育的意義を探究するためにカリキュラムや教科書の入手に努め、海外調査が可能になれば授業実践も含めて分析していく。特にカリキュラムと教育評価理論に沿って教科教育の内容、タキソノミー、コンピテンシー、パフォーマンス評価での分析手法を用いるように進める。 理論面においては、地域的調和化の理論的枠組みを用いて共通性とローカル化の中での相互作用的な学びと地域機関の影響について考察を進める。その際には教育借用理論での本研究の位置づけを確かめながら、理論的枠組みの検証も行っていく。またフィジーにある大洋州の教育の地域機関であるEQAP(元SPBEA)へのインタビュー調査も進めていく。 こうした研究の進捗を日本比較教育学会、日本教育学会等でも発表し、国際学会では(オンラインでも)可能な限り学会発表を進め、特にニュージーランドを中心に海外研究者からのコメントやアドバイスを求めていく。
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Causes of Carryover |
新型コロナ感染症の拡大によって、予定していた海外での調査や学会発表のためにニュージーランド、サモアに渡航できなかったこと、また国内においても、予定していた日本比較教育学会が中止となり、日本教育学会やオセアニア教育学会がオンライン開催となり、参加費も発生しなかったため、旅費に関する支出を執行できなかったことによる。 次年度では、新型コロナ感染症の収束を望みつつ、引き続き海外調査や学会発表のための渡航を行うが、特に今年度分も合わせた調査としたいため渡航期間を伸ばす予定である。学会での発表についても、海外研究者との情報交換を含めて現地滞在の期間を長く設けておく。 また、予定していたよりも海外での調査が困難であった分、更に資料の収集に力を入れ、海外からの書籍購入や資料の郵送、情報提供に関する謝礼も含めて支出を計画していく。
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Research Products
(5 results)