2020 Fiscal Year Research-status Report
乳幼児の快適性・健康性保持のための保育室内空気環境の実態把握と室内環境基準の提案
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20K02651
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Research Institution | Nagasaki University |
Principal Investigator |
源城 かほり 長崎大学, 工学研究科, 准教授 (90315648)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
横江 彩 中部大学, 工学部, 講師 (50761235)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 保育室 / 乳幼児 / 空気環境 / 室内環境 / 快適性 / 健康性 / 保育施設 / 実測 |
Outline of Annual Research Achievements |
フランスの教室環境の空気質評価に用いられているAir Stuffiness指標など,海外の保育室内環境基準に関する文献レビューを行い,これまでに測定した保育室内二酸化炭素濃度の測定結果を評価した。そして,保育施設5園における0歳児室,1歳児室計7室を対象として,2020年夏季及び冬季に室内空気環境に関する実測調査を実施した。室内空気環境の測定項目は,化学物質気中濃度,空中浮遊カビ数,PM2.5濃度,二酸化炭素濃度である。調査対象の5園中,2園が保育園であり,それ以外は認定こども園である。測定結果については学校環境衛生基準を参照して評価した。実測の結果,冬季においては二酸化炭素濃度を除けばあまり問題は見られなかったが,夏季にはコロナ禍であったにもかかわらず二酸化炭素濃度が高い園が見られたり,一部の室で室内濃度指針値を超過する化学物質が検出されたり,空中浮遊カビ数が多い事例が見られた。化学物質気中濃度に関しては,5園中唯一木造であった保育施設において,夏季にアセトアルデヒド気中濃度が厚生労働省の室内濃度指針値を超過していた。また,この施設では室内二酸化炭素濃度も高かったことから換気不足の可能性が指摘された。夏季においてはほとんどの施設においてカビ数が多いことがわかり,室内と外気の空中浮遊カビ数の比がいずれの施設でも1以上であったことからカビの発生源は室内である可能性が高いことがわかった。PM2.5濃度は夏季,冬季ともある園を除けば浮遊粉じん基準を概ね下回っていた。保育室内二酸化炭素濃度は室容積が小さく,乳幼児1人当たりの面積が小さい室で高い傾向が見られた。各調査対象保育施設には夏季,冬季の実測結果を報告し,学校環境衛生基準を満たしていない項目があれば,改善するための方策について提案した。また,CO2モニターを配布し,継続的な二酸化炭素濃度の確認を依頼した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
長崎市内の保育室内空気環境の実測調査は5箇所の保育施設において夏季,冬季とも実施できたが,新型コロナウイルスの感染拡大により,研究分担者との研究打合せを対面にて実施できず,メールでの討議となったため。
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Strategy for Future Research Activity |
2021年度において,2020年度と同様に,夏季,冬季に,保育室における空気環境の詳細実測調査をこれまでに調査に協力していただいた施設の中から4~5施設を選んで調査対象とするが,不足する場合には新規の保育施設も開拓できないか検討する。測定箇所は低年齢児の保育室(0歳児室,1歳児室)及び外気とする。測定項目は,2020年度と同様に二酸化炭素濃度のほか,化学物質(ホルムアルデヒド,アセトアルデヒド,揮発性有機化合物)気中濃度,浮遊真菌濃度,浮遊粉じん濃度とする。調査方法は前年度と同様であり,化学物質気中濃度はパッシブ法にて調査し,浮遊真菌濃度は2種類の培地を用いて調査する。二酸化炭素濃度及び浮遊粉じん濃度は測定器を設置後24時間の間,継続的に測定する。調査対象保育施設には二酸化炭素濃度をチェックするためのCO2モニターを配布し,継続的な測定を依頼し,換気の目安としてもらう。保育室における空気環境の調査結果は報告書として取り纏めて各保育施設に報告し,測定値が学校環境衛生基準等を満たしていない項目については,改善に向けた助言をする。また,2020年度から2年分の保育室内空気環境の詳細測定結果を統計的に分析する。 一方,2年分の成果及び研究代表者がこれまでに収集した保育室内環境データに関する研究打合せを開催し,研究代表者と研究分担者との間で意見交換をし,熱・空気環境データを研究代表者が,光環境データを研究分担者が検証し,各種環境改善のための方策を取り纏める。 2022年度において,これまでの検討結果を総括し,建築環境工学の立場から音環境以外の保育室内環境基準を案として取り纏め,学会等で提案する。音環境については,音環境の専門家であり,研究協力者である熊本大学大学院先端科学研究部の川井敬二教授に,保育室の音環境データの実態を踏まえた音環境の基準の在り方についてヒアリングする。
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Causes of Carryover |
2020年度の冬季実測調査において,同年度夏季実測調査で化学物質気中濃度と浮遊真菌濃度の分析外注のためにかかった分析会社への小荷物運送料と同額程度を計上していたが,測定スケジュールの効率化によりまとめて配送することができたため,当初見込みよりも小荷物配送料が減額となったことにより次年度使用が生じている。また,新型コロナウイルスの感染拡大により,当初予定していた研究打合せができず旅費の支出がなかったことも次年度使用が生じた理由の一つである。 2021年度は昨年度とほぼ同様に保育施設4~5園の保育室を対象とした実測調査を夏季,冬季に実施する予定である。したがって,化学物質気中濃度と浮遊真菌濃度の分析費用として最終的な測定箇所数にもよるが,合計して81万円から87万円を支出する予定である。分析費以外としては,測定した検体を分析会社に送付する際にかかる小荷物配送料や研究打合せ旅費あるいは学会発表旅費,その他消耗品費,謝金等に使用する予定である。
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