2021 Fiscal Year Research-status Report
明治・大正期の幼稚園教育における童話の「話し方」実践に関する実証的研究
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20K02670
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Research Institution | Tokai University |
Principal Investigator |
桑原 公美子 (北川公美子) 東海大学, スチューデントアチーブメントセンター, 教授 (00299976)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
山本 康治 東海大学, スチューデントアチーブメントセンター, 教授 (10341934)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 幼稚園教育 / 話し方 / 童話 / 小学校教育 / 口演童話 / 明治期 / 大正期 |
Outline of Annual Research Achievements |
本課題研究では、明治・大正期の幼稚園教育における童話の「話し方」実践について、小学校教育の動向と重ね合わせながら、その関係性を視野に入れながら分析する(研究系列A)とともに、児童文学の視点からの口演童話の動向も含めて考察し(研究系列B)、それらを当時の保育日誌・教案等などから実証すること(研究系列C)をとおして、明治・大正期の幼稚園教育の保育実践の実態と構造の一端を明らかにすることを目的とするものである。 令和3年度において、研究系列Aでは、童話の「話し方」及び「談話」の教育的意図と方法に関する言説について、当時の教育雑誌(『教育』『教育実験界』『教育研究』)、及び前年度の引き続き『婦人と子ども』の文献調査を行った。小学校教育については、奈良県吉野郡の小学校長会書類(奈良県庁文書)の調査を行い、当時の国語科・修身科の教育的意図について、実際の教育現場の状況を把握することができた。 研究系列Bでは、口演童話及びその「話し方」に関する言説について、岸邊福雄を中心に、口演童話の立場から求める童話の話し方について、その著書等から文献調査を行った。小学校教育においては、当時の小学校と口演童話のかかわりについて、大阪・奈良地区の小学校記念誌等を中心に文献調査を行った。 研究系列Cでは、幼稚園教育における童話の「話し方」の実践に関して、幼稚園記念誌等に掲載された当時の保育者の回想記録を分析した。また当時、その中心的役割を担っていた東基吉・和田実及び岸邊福雄の主張を分析した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
令和3年度における研究系列ごとの進捗状況は、以下のとおりである。 研究系列Aについては、幼稚園教育における童話の話し方には、当時の童話の教育的役割としてもっとも重視された想像性をどのように捉えるか(「復元的想像」か「創作的想像」か)によって変わってくることが示唆された。小学校教育については、奈良県吉野郡の小学校長会書類(奈良県庁文書)から、当時の国語科・修身科の教育的意図には、大正デモクラシーの気風の中、ナショナリズムがそれと違和のない形で併存している様子を捉えることができた。ただし、昨年度の引き続き、令和3年度は新型コロナウイルスの影響で大学図書館等が閉館していたため、広範な資料収集ができなかった。 研究系列Bについては、幼稚園園長であり口演童話家である岸邊福雄が、童話の話し方の中でも特に「声の表情」と「身振り」を重視していたことが示唆された。大正末期に創設された奈良県童話連盟には、その岸邊のほか、巌谷小波・久留島武彦が連盟顧問として名を連ね、指導に当たっていたことが示唆された。これら団体が、教育界とどのような距離を保ち、童話とその話し方を普及させていこうとしたのかについて明らかにする必要がある。 研究系列Cでは、当時の幼稚園教育で中心的な役割を担っていた東基吉、和田実、そして岸邊の三人の実践方法を、「心得(話すときの意識)」「使用する言語」「表情(身振り・声など)」「絵の使用」「繰り返し」「順序性」の視点から分析し、彼らの教育目的としての想像性の捉え方の違いが、それぞれの点における話し方の違いとなっていることが示唆された。しかし、新型コロナウイルスの影響で、各地域への出張や、実際の保育日誌・記録を所有する園等に訪問することができず、十分な資料を集めることはできなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
令和4年度における研究系列ごとの推進方策は、以下のとおりである。 研究系列Aについては、明治・大正期の保育・教育雑誌、東京高等師範学校の研究誌『教育研究』、各地の師範学校の研究誌(北海道、東京、大阪、奈良)等を対象とした調査研究をとおして、幼稚園教育及び小学校教育における童話の「話し方」及び「談話」の具体的な教育的意図と方法に関する言説について明らかにする。また、それらを踏まえて、明治から大正期までの史的観点から、その実態と構造の変容と過程を明らかにする 研究系列Bについては、当時の児童文学関係の書籍・雑誌、及び小波ら口演童話家による記録、各師範学校の講話会に関する記録を対象とする調査研究をとおして、口演童話及びその「話し方」の方法と教育的効果に関する言説について明らかにするとともに、明治から大正期までの史的観点から、その実態と構造の変容と過程を明らかにする 研究系列Cについては、当時の幼稚園の保育日誌・保育記録(北海道、東京、山梨、大阪、奈良)や、個人の回想録の調査研究をとおして、童話の「話し方」実践の実態について明らかにするとともに、明治から大正期までの史的観点から、その実態と構造の変容を実証的に分析する
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Causes of Carryover |
令和3年度の研究計画の実施については、新型コロナウイルス感染症対策のため、計画通り実施できなくなり、次年度使用額が発生した。令和4年度に入り、研究出張が可能になった時点で、令和3年度未達分の研究出張も合わせて実施する計画である。
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