2023 Fiscal Year Research-status Report
哲学資源としての漢文教材および学び方の開発に関する基礎的研究
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20K02730
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Research Institution | Osaka Kyoiku University |
Principal Investigator |
小路口 真理美 大阪教育大学, 教育学部, 教授 (30849047)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
中川 雅道 神戸大学, 附属学校部, 附属中等教育学校教諭 (00842923)
太田 亨 広島大学, 人間社会科学研究科(文), 准教授 (80370021)
鶴成 久章 福岡教育大学, 教育学部, 教授 (20294845)
小路口 聡 東洋大学, 文学部, 教授 (30216163)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 哲学資源 / 漢文 / 会読 / アクティブラーニング / 子どものための哲学 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、漢文教材を、訓詁考証学・書誌学などの古典学を踏まえた上で、歴史主義の視点を考慮しながら、一つの「哲学資源」という観点から捉え直し、更には、その学習に最も適した「会読」を、子どものための哲学(p4c)という現代的対話型学習を検証に軸に置きながら、アクティブラーニングとして再構築するという、これまでにない新たな、深い、探究的な学びを可能にする漢文教育モデルを提案することを目的としている。 教材開発については、「哲学資源」たりうる漢文テキストは、①論理的な特性を備えた文体であること、②書かれた当時の価値観を示していること、③現代に通じる本質的な問いかけに端を発するテクストであることを条件とした。その上で、分担研究者が、それぞれの専門分野で選出したテキストを用いて、目指す会読的な、すなわち、対話型授業の成立を目指した。授業者は、ファシリテーターとして、生徒から問いを引き出すことに努め、問題領域を共有し、生徒の探究活動を支援する。生徒達は、こ うした授業を通じて、せいとには、認識を更新したり、深化させたりすることを期待した。 具体的には、『孟子』梁惠王上篇「君子庖厨を遠ざく」を教材として、基本的な読解を行った後、p4cで、大学生、中学生が、それぞれ自分達で発展的な問いを立て、対話を行った。この実践から、問いが変容する過程の体験が、探究の面白さを知らしめることになるという成果を得た。中学校での授業は、研究授業として、多くの教員、学生、一般などに公開した。また、一連の研究成果は、学会で報告し、学会誌でも紹介した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
コロナ禍の2020~2022年度まで、実際に教育現場に赴くことは不可能であった。その間は、漢文テキストを「哲学資源」という観点から、分担研究者が、それぞれの専門分野で精選し、教材化の可否について、オンラインで議論を重ねた。また、各々論文を発表し、講演を行うなど、「『哲学資源』としての漢文」という視点からの教材開発、及び教育現場や一般人への普及については、一定の成果をあげている。 しかし、学び方の研究は、コロナ禍によって遅れていると言わざるを得ない。確かに、一部の高等学校や大阪教育大学国語教育部門の学生を対象に、オンラインで、ブレイクアウトセッション等の機能を使い、分担研究者、研究協力者とともに、「哲学資源」としての漢文を教材とした対話型授業を実践することはできた。しかし、GIGAスクール構想が進んでいるとはいえ、ネット環境が十分に整わず、スキルも未発達な中・高生も多く、実践研究として、検証するまでには至っていない。 ハワイ大学のUHM Uehiro Academy for Philosophy and Ethics in Educationとの「会読」(対話型授業)についての共同研究が、コロナ禍でハワイへの渡航ができなかったり、予定していたオンライン研修が中止になったりして、遅れてしまっている。
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Strategy for Future Research Activity |
「哲学資源としての漢文の教材開発」に関しては、令和6年度は、代表及び分担研究者全員で、過去4年間で開発した漢文教材及び授業構想を踏まえ、漢文教材集・指導書(解説やファシリテート方法も含む)を編集し、冊子あるいは、web上での公開を目指す。なお、新規漢文教材の開発だけでなく、教科書教材による対話的授業の展開の提案にも力を注いで、教育現場(中学校・高等学校)でのアクティブラーニングの実行に寄与できるように努める。 さらに、コロナ禍による移動の制限が撤廃されたため、「哲学資源としての漢文」の授業をデザインし、学校現場と協力して、汎用性を持った事例として公開できるようにする。また、漢文の学習形態として最も適合していた「会読」をp4cという現代的対話型学習を検証の軸に置きながら、アクティブラーニングとして再構築するという目的を果たすべく、ハワイの UHM Uehiro Academy for Philosophy and Ethics in Educationに、ベンジャミン・ルーキーを訪ね指導を受ける。 テクストを用いた哲学対話について、ハワイという多元的な社会で自己の個性を押し出すと同時に、他者と協働してテーマの探究に取り組む子ども哲学の実際を経験することは、大阪教育大学の掲げる「ダイバーシティ大阪の教育課題に寄り添う」というミッションにも貢献することになる。 最終段階として、哲学資源として漢文のアクティブラーニングとしての有用性と、古典教育の意義を教育現場で確認したい。
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Causes of Carryover |
コロナ禍の開けた今年度、まず、構築してきた理論とそれに基づき開発してきた漢文教材を用いて、学校現場での授業実践を試みる。これまでは、限られた場(例えば、神戸大学附属中等学校、大阪教育大学附属学校園など)での授業であったため、汎用性、再現性においては、課題があった。 また、漢文の学習形態として最も適合していた「会読」をp4cという現代的対話型学習を検証の軸に置きながら、アクティブラーニングとして再構築するという目的を果たすべく、ハワイの UHM Uehiro Academy for Philosophy and Ethics in Educationとの共同研究を、分担研究者中川雅道を中心に再始動し、哲学資源としての漢文教材を、国際的視野で見直したいと考えている。 古典不要論が声高に叫ばれているが、対話について「真理の追究という共通の目的をもった個人と個人が、対等の立場で、臨む議論」と再定義してみると、その典型を、例えば、『孟子』の本性論争に見出すことができる。つまり、孟子・告子の所説、朱熹の注釈を、共通の真理を追究するための対話であると捉え、学生が当事者意識を持って、思索を深めていくための触媒として位置づけるプログラムなど、現場での実践でブラッシュアップして「哲学資源としての漢文教材及び学び方の開発」というタイトルで、冊子あるいは、web上での公開を目指す。
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