2020 Fiscal Year Research-status Report
International comparative study on portfolio use in career education for individuals
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20K02756
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
京免 徹雄 筑波大学, 人間系, 助教 (30611925)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | キャリア・ポートフォリオ / 時間的展望 / 学びの発展性 / 学習としての評価 / カリキュラム・マネジメント |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、キャリア・ポートフォリオの活用方法とその成果について日本・アメリカ・フランスの3ヶ国を比較分析することで、多様な社会的背景をもつ児童生徒が時間的展望をもって自律的に人生の物語を紡ぐことができるしくみを創出することである。 本年度は、まず日本の実態を把握するため、「キャリア教育に関する総合的研究」の結果および先行研究をレビューした。「キャリア・パスポート」の記載内容に注目すると、特に中学校で、教科学習を記録している割合が行事等に比べて少なくなっている。日常と非日常の両方を記入し、「自己の成長」を軸に両者を往還させていくことが今後の課題である。同調査の第一次報告書では、職場体験(非日常)と日常の学習をつなげられる生徒は、キャリアプランニング能力が高いという結果も示されている。 さらに、先行研究ではキャリア発達を促進するポートフォリオの要素として、①学びの継続性、②学びの発展性、③学びの時間的展望の3つが指摘されているが、日常と非日常の接続という観点からは、教科等で身に付けた基礎的・汎用的能力と体験活動との結びつきについて、児童生徒が展望できることが重要である。そのためには、「学習としての評価」が有効であり、学習者と教師を含めた他者で目標・評価規準・評価情報を共有して問い直すことにより、多角的な視点から学びの成果と発展可能性を捉えられる。 次に日本とフランスとの比較を行った。フランスでは市民性教育において、ポートフォリオを活用しており、機能の異なる2種類のツールを使い分けて省察と認証を行っている。市民としての経験の可視化と資本化することで、カリキュラム・マネジメントにつなげているのが特徴である。日本では両者の関係は議論されていないが、教職員、保護者、地域住民といったアクターが記録を協働的に見取り評価することで、効果的なマネジメントにつなげる必要がある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
本年度は、日本で「キャリア・パスポート」を用いた実践事例を収集し、先進地域の教職員のインタビューするとともに、アメリカ・オハイオ州でフィールド・ワークを行い、州教育委員会、各学区教育委員会、および中・高等学校などを訪問し、資料収集、関係者への半構造化インタビュー、ガイダンスやカウンセリングの参観を行うことを予定していた。 しかし、新型コロナウィルス感染拡大による一斉休校などの影響を受けて、国内でのインタビューは想定通りに進まず、また学校での集団活動が制限される中で、学校現場における「キャリア・パスポート」の導入・活用が大きく遅れている現状がある。さらに、パンデミックの影響で海外渡航ができなくなったことで、アメリカでのフィールドワークも実現しなかった。代替策としてオンラインでのインタビューも試みたが、対象国のアメリカとフランスは特に感染状況が酷く、進まなかった。 一方で、政府による大規模調査や先行研究の分析を通じて、キャリア教育を「真正の学習」(子どもにとってリアリティがあり、意義が感じられる文脈において、日常で獲得した知識・能力を活用する学び)にするために、キャリア・ポートフォリオに大きな可能性があることを明らかにすることができた。すなわち、ポートフォリオによって①可搬性、②活用可能性、③持続可能性を担保することで、コンピテンシーに関する学習の転移を引き起こすことができる。また、過去に行ったフィールドワークのデータを再分析して日仏比較をすることで、ポートフォリオとカリキュラム・マネジメントを一体的に運用することで、意図・実施・達成レベルのカリキュラムを接近させることができるという示唆が得られたのも成果である。 以上のように一定の研究成果は得られたものの、特に本研究に欠かせない海外でのフィールドワークができなったことを鑑みると、進捗状況は「遅れている」と判断せざるを得ない。
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Strategy for Future Research Activity |
当初、1年目(今年度)にアメリカでの調査、2年目にフランスでの調査、3年目にキャリア・ポートフォリオの活用モデル構築を予定していたが、今年度は調査ができなかったため、これを後ろ倒しにする。具体的には、2年目にアメリカ、3年目にフランスでの調査と活用モデルの構築を行う。 ただし、新型コロナウィルス感染拡大により、海外調査が引き続き実施できない場合は、調査協力者ネットワークを活用し、オンラインでのインタビューを行う。 調査内容は、教員によるポートフォリオの活用とカウンセラーとの連携、カウンセラーによるガイダンス・カウンセリングにおける理論の応用、生徒の多様性、特にリスクを抱えた児童・生徒へのアプローチとその成果、小・中・高等学校をつなぎ時間的展望をもたせるための工夫とその成果、の4点である。その上で、調査結果を分析し、リスクを抱えた層を含む多様な児童・生徒が時間的展望をもって主体的にキャリアを形成できるように、理論に基づく活動や支援をどのように展開すればよいか明らかにする。
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Causes of Carryover |
予定していたアメリカでの実地調査ができなかったこと、国内での学会が全てオンライン開催になったことなどにより、次年度使用額が生じた。調査計画を後ろ倒しにして次年度にアメリカ調査を行うため、その旅費として使用する。また、国内学会が集合形式で開催される場合には、研究成果公表のための旅費としても使用予定である。
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Research Products
(5 results)