2021 Fiscal Year Research-status Report
International comparative study on portfolio use in career education for individuals
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20K02756
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
京免 徹雄 筑波大学, 人間系, 助教 (30611925)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | キャリア教育 / eポートフォリオ / 特別支援学級 / キャリア・カウンセリング / 授業分析 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、キャリア・ポートフォリオの活用方法とその成果について日本・アメリカ・フランスの3ヶ国を比較分析することで、多様な社会的背景をもつ児童生徒が時間的展望をもって自律的に人生の物語を紡ぐことができるしくみを創出することである。 本年度は、全ての中等教育機関にeポートフォリオFoliosを導入しているフランスに着目し、中学校の特別支援学級における効果的な活用方法について考察した。具体的には、中学校4年生の特別支援学級で実施された学級活動を分析した。授業内容は、認知・精神障害を抱えた生徒6名が、進路相談員(T1)、教員(T2, 学級担任)、支援員(T3)のもとで、Foliosを使って履歴書を作成するというものである。各生徒にはタブレットが1人1台配布され、それは電子黒板に接続されていた。録音データを文字化して日本語に翻訳した逐語記録を分節に分け、分節ごとに概要、他の分節との関連性、eポートフォリオ活用の論理、分節を特徴づける発言、を抽出した。 分析の結果、Foliosの活用の論理は15種類抽出され、①ポートフォリオの所有権の確認、②キャリア・モデルの提示、③トライ・アンド・エラーの徹底、④振り返りによる自己理解促進、⑤職業世界に関する情報提供、の5つのパターンに分類できた。障害を抱えた生徒にとって、Foliosは①いつでも、どこでも経験したことをスマートフォンから記入でき、記録した内容を閲覧できる、②予測変換機能があるため、手書きでは文章を書くのが苦手でも自己表現しやすい、③語彙力が乏しくても既定のリストの中から選択することで、それを手掛かりに自己理解を深めることができる、といった利点がある。この利点を生徒自身が自律的に活用できるように、相談員は学級担任と専門性を補完し合いながら、これらのロジックを駆使してキャリア・カウンセリングを実践していた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本年度は、新型コロナウィルス感染拡大で昨年に実施できなかったアメリカ・オハイオ州でのフィールドワークを行い、州教育委員会、各学区教育委員会、および中・高等学校などを訪問し、資料収集、関係者への半構造化インタビュー、ガイダンスやカウンセリングの参観を行うことを予定していた。しかし、感染拡大が依然として続いており、海外での実地調査を行うことができなかった。 そこで、対象国を次年度に調査予定であったフランスに変更した。その上で、文献調査、過去に入手した未処理データの分析、関係者へのオンライン・インタビューによって研究を進め、特別支援教育におけるeポートフォリオの活用方法を明らかにした。日本の「キャリア・パスポート」は紙媒体で作成されることが一般的であるが、自己表現や記憶の定着に困難を抱える児童生徒にとって、電子化は有効な「配慮」の1つになりうる。中央教育審議会答申では、将来的に電子化する可能性に言及しているが、コロナ禍において1人1台の端末配布が急速に進む中で、実現のハードルは低くなっている。ゆえに、電子化によって障害をもつ子どもにいかなる恩恵がもたらされうるか、またどのような方法でその恩恵を生み出すことができるかをについて、フランスから知見を得ることができた意義は小さくない。 以上のように一定の研究成果は得られたものの、特に本研究に欠かせない海外でのフィールドワークができなったことを鑑みて、進捗状況は「やや遅れている」と判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
当初、1年目にアメリカでの調査、2年目にフランスでの調査、3年目にキャリア・ポートフォリオの活用モデル構築を予定していたが、1年目・2年目ともに海外調査ができなかったため、これを後ろ倒しにする。 具体的には、次年度にアメリカでの調査と活用モデルの構築を行う。調査内容は、教員によるポートフォリオの活用とカウンセラーとの連携、カウンセラーによるガイダンス・カウンセリングにおける理論の応用、生徒の多様性、特にリスクを抱えた児童・生徒へのアプローチとその成果、小・中・高等学校をつなぎ時間的展望をもたせるための工夫とその成果、の4点である。その上で、調査結果を分析し、リスクを抱えた層を含む多様な児童・生徒が時間的展望をもって主体的にキャリアを形成できるように、理論に基づく活動や支援をどのように展開すればよいか明らかにする。ただし、ただし、新型コロナウィルスの影響で海外調査が引き続き実施できない場合は、調査協力者ネットワークを活用し、オンラインでのインタビューを行う。 フランスについては、文献調査、過去に入手した未処理データの分析、関係者へのオンライン・インタビューによってある程度の知見が得られているが、さらに調査が必要な場合には、研究期間を延長して4年目にフィールドワークを行うことも視野に入れたい。
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Causes of Carryover |
予定していたアメリカでの実地調査ができなかったこと、国内での学会が全てオンライン開催になったことなどにより、次年度使用額が生じた。調査計画を後ろ倒しにして次年度にアメリカ調査を行うため、その旅費として使用する。また、国内・国際学会が集合形式で開催される場合には、研究成果公表のための旅費としても使用予定である。
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Research Products
(7 results)