2020 Fiscal Year Research-status Report
Constructing the method of teaching Western painting appreciation shifted to art reading (objects are paintings) and cultural understanding, and developing learning contents
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20K02760
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Research Institution | Shinshu University |
Principal Investigator |
岡田 匡史 信州大学, 学術研究院教育学系, 教授 (30194369)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | ヴェロネーゼ「カナの婚宴」 / シモーネ・マルティーニ「受胎告知」 / 聖書記事とキリスト教図像学に則る絵の読み方 / 画中画を使う内部連環型読解的鑑賞 / 歌唱・器楽演奏を描く西洋絵画の鑑賞体験 / 美術・音楽2教科の横断型相互連携 / エドムンド・バーク・フェルドマン / ジョージ・ゲーヒガン |
Outline of Annual Research Achievements |
令和2年度は,食事系譜の絵から,ヴェロネーゼ「カナの婚宴」を選び,7段階で成る鑑賞学習モデルを構想した。第57回大学美術教育学会(奈良大会/平成30年度開催)で,その原型を示したが,内容を拡充し,論文に纏め,『美術教育学研究(大学美術教育学会誌)』第53号に投稿し,査読を経,掲載となった。これと共に,計10段階の授業構想の内,5番目のテキスト準拠型鑑賞迄を論考対象とした,『美術教育学(美術科教育学会誌)』第41号に既投稿の,「シモーネ・マルティーニ「受胎告知(1333年)」の鑑賞学習Ⅰ―読解基調の10段階の学習モデルの提案」の継続を図ることも,令和2年度の目標に据え,鑑賞題材開発を目指した。この中で,10段階構想の基盤形成途次,参照した,フェルドマンとゲーヒガンの2種批評学習に対し,比較検討を加えた。本続篇は,規模が拡大する一方で,黄金背景テンペラの小品試作段階が余り進まなかった為,『信州大学教育学部研究論集』第15号に研究報告として投稿し,校閲を経,掲載となった。ヴェロネーゼ「カナの婚宴」の鑑賞題材は,関係各位のご理解を賜り,信州大学教育学部附属松本中学校第2学年の学級で授業検証を実施し得た。 第59回大学美術教育学会(宇都宮大会)と第43回美術科教育学会(愛媛大会)で(共にWEB開催),オンデマンド配信による口頭発表を行った。前者は,「画中画を使う内部連環型読解的鑑賞の提案―《ロンドン・ナショナル・ギャラリー展》出品作を起点とする鑑賞授業構想に向けて」と題し,画中画に着目した読解方略を提起し,所蔵館HPが公開する絵の高精細画像を活用するオンライン鑑賞授業を行う案も示した。後者は,「歌・器楽演奏の場面を描く西洋絵画の鑑賞―絵を聴く/教科横断的な視点からの音楽科との連携の一提案」と題し,絵と音楽が両輪となる教科連携型読解学習を模索し,西洋文化理解を拡げる展開を提起した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
◎投稿を試みた研究成果2編の内,1編は査読通過後,『美術教育学研究(大学美術教育学会誌)』第53号への掲載が確定となったが,もう1編は研究内容を纏め切れず,未完成状態を残した儘,現時点の研究成果として,『信州大学教育学部研究論集』第15号に,校閲を経て発表する形となったことに,一定の意義は感じているものの,総て遣り遂げられなかった状態への不本意感も若干残ったから。 ◎上記2編は,読解を旨とする鑑賞題材の構想・開発に終始する論述内容で,実際の鑑賞授業実践とは隔たる面等の確認作業が未実施であり,学術研究上の弱さがそこに存在すると理解できたから。特に今回,査読者(複数)から,鑑賞題材を提起して完了とするのではなく,授業検証機会を必ず設け,その実践的価値を客観的に諸角度から査定する必要が有ると,異口同音に指摘されたことを受け,提案題材の客観的評価が十全ではなかったことを反省しているから。 ◎画中画に着眼しての読解的アプローチの在り方(内部連環型読解的鑑賞)を,第59回大学美術教育学会(宇都宮大会〈WEB開催〉)で発表して後,選定した鑑賞候補作品3点を展示する,《ロンドン・ナショナル・ギャラリー展》を鑑賞し,提案題材のブラッシュアップを行う計画でいたが,その段階には到れなかったから。《ロンドン・ナショナル・ギャラリー展》のような質高く充実した展覧会を訪れ,西洋絵画をこの目で実見・分析し,諸特質を緻密に経験する場を持つことは,本研究の言わば生命線であるというふうに価値付けている。緊急事態宣言に則る延期措置のお蔭で,学会参加後に東京展を観る可能性が一時は出てきた訳だが,移動に伴う感染の危険性を考慮せねばならず,結局は東京展も続く大阪展も鑑賞機会を逸した。世界規模の爆発的感染流行がワクチン接種で沈静化できた段階で,ロンドンに赴くしかないと,現在は考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
見ることが優位となりがちな西洋絵画鑑賞を超え,西洋絵画を通じた西洋文化理解をも目標に掲げる立場から,「読解(絵を読む学び)」なる主題を一層明瞭化し,鑑賞授業に絵画読解的局面を重層的に配備する試みを,今後の必須課題の1つと位置付けたい。その為の探求路線が,基本的に2つ存在し,1つ目が読解的鑑賞題材の開発(授業計画の作成,学習モデルの組織等を含む),2つ目が,授業実践場面でその実際的運用を可能とする,「読解ベース型鑑賞指導メソッド」を組み立て,検証授業で精緻化することである。 1つ目で重んじられるのが,候補作品群の精査と選定だが,図録・画集掲載の写真図版だと,絵の細部や展覧時の状態等に関する情報が限られてしまう為,実物観察(文化財の場合,現地鑑賞)が要請される結果となる。一般には展覧会が,候補作品群を幅広く認知し得る鑑賞機会を提供してくれるものであり,新型コロナ禍(変異株)の影響拡大に関し,現時点,未だ見通しが立たぬ状態が続くものの,なるべく多くの展覧会に足を運び,諸作を直接体験する場の数(令和2年度は0回に追い込まれた)を増やすことを心掛けたい。主軸は西洋絵画の展覧会だが,日本の学習者に西洋絵画を伝える時,架橋的・媒介的役割を果たせる,屏風絵・襖絵・絵巻物・書画等を公開する,日本美術の展覧会の鑑賞機会も可能な限り多く設けたい。海外渡航は困難な現況だが,国内では緊急事態宣言の動向を見守りながら,令和3年度は出張回数を増やし,東京方面,関西方面(拠点は京都辺り)で,実地鑑賞体験の拡充を図りたい。 続いて,2つ目で課題となってくるのが,鑑賞指導メソッドの有効性,また,開発題材の良否及び授業展開上の種々可能性を客観的に評価する為の,授業検証機会の確保である。附属学校を中心に,教育現場の先生方に研究協力をお願いし,読解的鑑賞の授業を少しでも多く実践させて戴けるよう努める所存である。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルスの世界規模の感染拡大が,今後,ワクチン接種でどの程度沈静化できるのか解らないが,海外出張,特にイタリアへの渡航及び現地滞在を可能とする為の補填経費として,97,596円を繰り越した。令和3年度は,申請時点では,令和2年度の学会誌投稿論文で読解的鑑賞対象に選んだ,ヴェロネーゼ「カナの婚宴」の成立地でもある,ヴェネツィアに赴き,新たに,ティントレット「最後の晩餐」を蔵す,サン・ジョルジョ・マッジョーレ教会を重点的に実地鑑賞したり,ここからパドヴァに移動し,ジョットがフレスコで内部装飾を施した,スクロヴェーニ礼拝堂を,鑑賞時間・入場者数の制限が有る為,複数回入場して見学したりすることを計画していた。実現を願うが,入手情報を踏まえるに,イタリアへの渡航及び現地滞在は現在もかなり厳しき状態に在る為,感染状況を注意深く見守り,行動に関し適切に判断する心算である。
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Research Products
(4 results)