2021 Fiscal Year Research-status Report
Constructing the method of teaching Western painting appreciation shifted to art reading (objects are paintings) and cultural understanding, and developing learning contents
Project/Area Number |
20K02760
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Research Institution | Shinshu University |
Principal Investigator |
岡田 匡史 信州大学, 学術研究院教育学系, 教授 (30194369)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | ヴェロネーゼ「カナの婚宴」 / エル・グレコ「受胎告知(大原美術館)」 / フラ・アンジェリコ聖告図(サン・マルコ美術館) / ドメニコ・ギルランダイオ「羊飼いの礼拝」 / レオナルド・ダ・ヴィンチ晩餐図のロール・プレイ / ソーシャル・ディスタンス版ロール・プレイ / 中学校第2学年生徒の解釈傾向 / 大学生の自由解釈における読解傾向 |
Outline of Annual Research Achievements |
令和3年度は,西洋絵画鑑賞における学習者の解釈傾向の把握に重点を置いた。『美術教育学研究(大学美術教育学会誌)』第53号収載の前年度完成論文,「ヴェロネーゼ「カナの婚宴(1562-63年)」の読解的鑑賞―食事の絵の系譜からの題材提案(7段階学習モデル)と作品分析」を理論的基柱に据え,信州大学教育学部附属松本中学校で行った,本題材の検証授業で確かめられた,第2学年生徒の解釈傾向を分析し,その結果を,「ヴェロネーゼ「カナの婚宴(1562-63年)」の多角的読解を目指す絵画鑑賞題材の授業検証―〈観察・想像・解釈〉と〈理解〉の2パートで構成する学習計画」に纏め,『美術教育学(美術科教育学会誌)』第54号に投稿し,査読を通過し,掲載となった。読解的鑑賞を促す指導メソッドを組織する上で,学習者の解釈傾向の精査が重要と認識し,<図画工作科指導法基礎A及びB>と<芸術教養美術ゼミ>の受講者を対象に,大学生の読解特性も検討した。前者実践は,「「受胎告知」を読む―オンラインでの鑑賞学習(自由解釈)の試み」と題し,第60回大学美術教育学会で発表(オンデマンド配信)し,後者実践は,「「芸術教養美術ゼミ」〔鑑賞教育入門〈絵を読もう! 自由解釈〉〕における受講者の読解傾向―ドメニコ・ギルランダイオ「羊飼いの礼拝(1485年)」の場合」と題し,第44回美術科教育学会で発表(Zoom)した。次も対象は大学生だが,画中人物の身体模倣ベースの作品読解を位置付け実践した,ソーシャル・ディスタンス版ロール・プレイの検証成果を,「レオナルド・ダ・ヴィンチ「最後の晩餐(1495-98年)」のロール・プレイ―「美術科指導法基礎」でB鑑賞を学ぶ一試行としての身体的読解法」に纏め,『美術教育学研究(大学美術教育学会誌)』第54号に投稿し,査読を経,掲載された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
令和3年度も,読解基調で西洋文化理解を促し得る西洋絵画鑑賞指導メソッドを探求し,指導法を考案し,そのメソッドや指導法を試す場として,西洋の代表的計5作品を鑑賞対象に選び,読解的鑑賞学習をモデル化した題材を構想した。さらにはそこで停止せず,研究者自身に拠る授業検証も関係付け,学習内容の実質的価値や発展的可能性を示せた。一番重視したのは,鑑賞題材開発の基層とも言える,学習者の解釈傾向・読解特性を可能な限り明瞭に把握し整理することであり,それが或程度達成できた。学習者は,各年齢段階で既に多様な学びを蓄積してきており,白紙では決してない。ネット社会で様々な美術文化にアクセスしながら,絵の観方や読み方を自ずと形成しつつあり,媒体・形態等を問わず,西洋絵画に接したならば,それを育み熟させた文化的背景を自由に想像したり,絵が発信する文化価値的メッセージから西洋文化のイメージが触発されたりする素地が形成されていると見た。本研究では,このような自然発生的とも呼び得る文化体験を基盤とした特徴的な解釈傾向・読解特性を,学習者の自由解釈時の対話や言語記述から抽出・分類することができた。 なお,日本の学習者(主要年齢層は中学生)の文化を捉える視野を拡げ,バランス良き調和の取れた文化観を育むべく,自国文化理解の柱も立てることとし,西洋絵画を観,かつ,読み解く鑑賞学習に,副主題的に日本美術を組み入れ,東西比較パートを組織する形態を構想しているが,令和3年度は,西洋絵画に対する学習者の解釈傾向・読解特性の精査を優先した為,本側面の推進は遅滞気味である。ただ京都を中心としたリサーチ(主対象:相国寺承天閣美術館・京都国立博物館・泉屋博古館の3種企画展,加えて永観堂禅林寺の寺宝展)は捗り,日本美術を西洋絵画に繋ぐ種々アイデアを得ることができたので,鑑賞題材に適宜組み込んでゆこうと思う。
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Strategy for Future Research Activity |
西洋絵画は多種多様で,読解的鑑賞題材を構想する際,作品毎にその特質を把握し,鑑賞題材化に有益と解せる視点や切り口,活動の手順・方法等を吟味する作業が必然的に求められてくる。因に,令和3年度では,ヴェロネーゼ「カナの婚宴(1562-63年/ルーヴル美術館蔵)」,エル・グレコ「受胎告知(1590頃-1603年/大原美術館蔵)」,フラ・アンジェリコ「受胎告知(1440年代前半/サン・マルコ修道院[美術館]壁画)」,ドメニコ・ギルランダイオ「羊飼いの礼拝(1485年/サンタ・トリニタ聖堂サッセッティ礼拝堂内設置)」,「レオナルド・ダ・ヴィンチ「最後の晩餐(1495-98年/サンタ・マリア・デッレ・グラツィエ教会隣接修道院食堂壁画)」の計5点を選び,特質に応じた鑑賞題材を考案し実践した。こうした方法は,本研究のコアを成すもので,今後も基本継続してゆく。 このように,読解ベース型鑑賞指導メソッドを熟考し,指導法や学習モデルを示し,西洋文化理解にも有効性を発揮できる,西洋絵画を対象とする読解的鑑賞題材を提起してきたが,この進め方の修正・改善も同時に認識している。理由は,本研究が,もしかすると一方向的で,かつ,ややマンネリ化した理論的提起に陥りがちな傾向を有すのを最近自覚し,さらには研究者側の主観(悪しきは独断)に立つトップダウンの提案の恨みも在るかも知れないとの懸念が深まりつつあるからである。指導&学習活動は,この認識を持って,指導者・学習者間の諸層成す対話(コミュニケーション)を核に成立するとの原点に立脚し,令和4年度も,onlineか対面かを問わず,開発者自身の授業を設け,題材検証にも力点を置く,実質性に富む研究活動を進めてゆきたい。
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Causes of Carryover |
図書購入申請段階で,出版・流通面の情報を把握し切れておらず,新本を古書に変えたり(価格の関係で逆の場合も起こった),入手可能との認識でいたものの,実際は品切れ・重版未定で,購入を断念したりする事態が起きてしまった関係で,14,185円を最終的に使用し切れなかった。14,185円は,令和4年度で図書購入費として使用する計画である。
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