2022 Fiscal Year Research-status Report
Constructing the method of teaching Western painting appreciation shifted to art reading (objects are paintings) and cultural understanding, and developing learning contents
Project/Area Number |
20K02760
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Research Institution | Shinshu University |
Principal Investigator |
岡田 匡史 信州大学, 学術研究院教育学系, 教授 (30194369)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | ヴェロネーゼ「カナの婚宴」 / 知識・読解 / 読解的鑑賞の理論的整備 / 自由解釈・作品解説 / ドメニコ・ギルランダイオ「羊飼いの礼拝」 / 疑問媒介型展開 / サンドロ・ボッティチェリ「聖母子(書物の聖母)」 / 会話場面を連想・類推・感情移入源とする聖母子像 |
Outline of Annual Research Achievements |
令和4年度は,「読解的鑑賞」の総括段階の理論的整備と,「絵を読む」鑑賞行為に重きを置く鑑賞指導メソッドの本質的側面の提起を柱とした研究を推進し,論文2編(①・②)を投稿し,査読を経,掲載となり,学会発表を1件行った。論文①では,信大教育学部松本附中第2学年で岡田が実施した開発題材の検証授業(2021年2月25日)を扱い,ヴェロネーゼ「カナの婚宴(1562-63年)」を観た生徒の感想・見解が綴られたワークシートの分析から,読解的鑑賞は何かを論じた。認知心理学的知見,PISA型読解理論を参考に,「知識」と「読解」について整理した上で,抽出生徒1名の「カナ婚宴図の意味論的ネットワーク」の作成も試み,鑑賞が創り出す知識構造のウェブ的様態を明示し得た。本様態の柔軟な拡充や豊潤化こそが読解的鑑賞が果たし得る役割と解し,読解的鑑賞の2部門,「自由解釈」と「作品解説」の緊密な連絡や有機的統合の重要性を検討した。論文②では,令和3年度の第44回美術科教育学会での口頭発表,「「芸術教養美術ゼミ」〔鑑賞教育入門〈絵を読もう! 自由解釈〉〕における受講者の読解傾向―ドメニコ・ギルランダイオ「羊飼いの礼拝(1485年)」の場合」を発展させ,キリスト教絵画を前にした時の大学1年生の読解傾向を異文化理解的視点より捉え直し,自由解釈段階で絵に対し数多の疑問が発せられている実態を見出し得たことで,この疑問を自由解釈と作品解説を繋ぐ因子とするアイデアを練り,西洋絵画の読解的鑑賞の一基本形態としての「疑問媒介型」を提起した。口頭発表では,様々な連想・類推・感情移入が成立し得る絵として,母子間の対話場面を主題化したボッティチェリ「聖母子(書物の聖母[1482-83年頃])」を選び,信大・松本大学両教育学部の<図画工作科指導法基礎A><初等図画工作科指導法>で得られた多種応答を基に読解的鑑賞の一発展可能性を論じた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
「読解的鑑賞」関係の論文2編(①・②)の内,①が中学2年生,②は大学1年生を学習者とした。3部作の最終稿と位置付ける,①「ヴェロネーゼ「カナの婚宴(1562-63年)」の鑑賞を扱う授業検証に基づく読解的鑑賞の理論的整備―知識,読解,読解的鑑賞」が纏められたのは,令和4年度の大きな研究成果と自認する。西洋絵画の読解的鑑賞の一貫した諸研究を,「知識」,「読解」の面から理論的に総括する性格を持つからである。本稿で確認した,鑑賞行為が生むウェブ的様態が特徴的な知識構造をどう豊かに育むかの指導メソッドについては,②で詳説を試み,西洋文化圏で育った西洋絵画を日本人側では「疑問凝集体」と捉える視座より,疑問の有効性に着眼し,「自由解釈」と「作品解説」をこの疑問が結合する「疑問媒介型」の読解的鑑賞を提案できたのも収穫であった(なお,両編共,査読者の問・指摘・教示で成立し得た点を附記させて戴く)。課題としては,上記結論を裏付け更に発展させる鑑賞題材開発が追い付かず,鑑賞授業実践が未だ足りぬ点を挙げ得る。加えて令和4年度は退っ引きならぬ事情が生じ,関連する口頭発表は1件に留まり,他の西洋絵画を主題化した鑑賞授業の資料は持ち得ていたものの,第45回美術科教育学会(兵庫大会)での成果発表は見送る結果となった。令和4年度は上述遅延やかかる事態を補填する時間的余裕が無く,研究の継続・進展を次年度に回す措置を取らせて戴いた。但し,教材研究に益する展覧会は複数経験できた等,準備は着実に進んでいる。国立西洋美術館『常設展』,東京都美術館『スコットランド国立美術館 THE GREATS 美の巨匠たち』,国立新美術館『メトロポリタン美術館展―西洋絵画の500年』等は参照点満載だった。令和3年度同様,日本・西洋両美術の関係付けを鑑賞学習の土台に敷く案は現状進捗しておらず,ここに踏み込むか否かは慎重に見極めたい。
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Strategy for Future Research Activity |
令和4年度の論文2編と口頭発表1件を礎に,学習者が西洋絵画を楽しく精緻に観察し,果敢な姿勢で学習者内に既に蓄積された種々知識を総動員して読み解く自由解釈パートを充実させ,そこに生じる諸種疑問を学習契機に変換し,知識を扱うが異なるフェーズを有す次段階,即ち,様々な知識を積極的に獲得し読解を満喫できる作品解説パートへと導く学習構造をブラッシュアップする。その際,2パート間の循環も模索する。学習者は各々が特色を備える中学生(可能ならば第2・3学年)と大学生とし,両対象の授業実践から読解ベース型鑑賞指導メソッドの多角的構築を図る。令和4年度で取り上げた西洋絵画は,ヴェロネーゼ「カナの婚宴(1562-63年/ルーヴル美術館蔵)」,ドメニコ・ギルランダイオ「羊飼いの礼拝(1485年/サンタ・トリニタ聖堂サッセッティ礼拝堂内設置)」,サンドロ・ボッティチェリ「聖母子(書物の聖母[1482-83年頃]/ポルディ・ペッツォーリ美術館蔵)」の3作で,何れも日本人には難解さを齎すキリスト教絵画だが,前2作は物語画的特質から3作目は対話的状況から読解可能性が無限に開かれてゆき,自由解釈パートでの想像力・思考力・物語創出力等が磨かれるのを中学生・大学生双方で確認できた。そこで,本経験を足場に用いて,関連文献を知ったり,透視図法・陰影法・色価・構図等の造形手法を理解したり,図像学的解釈法を習得したり,アトリビュート(象徴的持物)の代表例を覚えたりする等を行う作品解説パートを密度濃く練り上げる。他方,絵の読解は制作を通じても促進できるので,色鉛筆・クレヨン・水彩絵具等,各種画材で絵の一部を模倣したり,黄金背景なら金紙の切り貼りを試したり,生卵や漆喰と顔料とでテンペラまたはフレスコを経験したりと言った,現物の擬似体験も重要視し始めており,西洋文化の鉱脈とぶつかる可能性が高く,その辺りも試行錯誤する。
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Causes of Carryover |
令和4年度6月に起こった子供の脳出血とその後の血管塞栓術・開頭摘出手術・入院加療への継続的諸対処で,研究活動を最小限に縮減せざるを得なくなり,本事態下で,求めるべき図書の目星は付けていたのだが,最終段階の精選作業が計画通り進まなくなり,図書購入申請を先送りし続ける状態に陥り,結局購入には到れなかった。それと,発表内容を纏める段階には達し得なかったのだが,年度末3月開催の第45回美術科教育学会(兵庫大会)への口頭発表を断念した為,確保していた学会関係予算が宙に浮く結果となってしまった。こうした事情が予算執行計画を狂わす要因となった。令和4年度末,上記事態で発生した研究全体の遅滞を埋めるべく,期間延長を申請した。そこで,令和5年度は,221,041円で研究遂行を果たさねばならぬ現況を勘案し,限られた額を必要図書購入に充てるのを柱に据えると共に,旅費,入館料,図録資料代,学会発表費用,論文の執筆・投稿関係諸経費,そして,査読を通った場合の学会誌掲載費等にバランスよく配分する計画である。
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