2021 Fiscal Year Research-status Report
彫刻の制作過程(プレフィグラツィオン)に着目した教員養成系大学における教材の開発
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20K02907
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Research Institution | Joetsu University of Education |
Principal Investigator |
松尾 大介 上越教育大学, 大学院学校教育研究科, 教授 (50377230)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
岩永 啓司 北海道教育大学, 教育学部, 准教授 (20758445)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 彫刻表現 / プレフィグラツィオン / 見方・考え方 / 教員養成系大学 / シラバス |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では,これからの教員養成系大学の彫刻表現に関わる授業内容について,制作過程(プレフィグラツィオン)に着目して検証している。日本教育大学協会全国美術部門に所属する大学を対象として,昨年度実施したシラバス調査から,今年度は基礎資料を構築し,授業内容の傾向を分析した。プレフィグラツィオンの諸段階(意図した対象を最終的形象に結実する〈協調〉,強調・純粋化する〈抽象化〉,素材との対応から始まる〈初発〉)を観点に分析した結果,〈協調〉の人体塑造で造形力を養成する題材を中心に構成し,彫造や集合の題材で自由な主題を扱う傾向を確認した。一方,主題の生成や〈初発〉の題材を検討する必要性等が示唆された。また〈抽象化〉の題材における要素等の省察により,教員として必要な説明力を向上させる意義を確認した。併せて,シラバスにテキストや参考書として多く記載されていた著書(彫刻家・岩野勇三著)に着目し,その著書から示唆される「見方・考え方」を重視した。岩野の回顧展を開催する美術館と連携し,大学の授業と関連させた教育普及活動を実施した。岩野の著書を授業で用いている大学教員等を展覧会のシンポジウムにオンラインで招聘し,各大学の授業内容を共有しながら,岩野から学ぶべき教育的意義を確認した。また,基礎資料から,彫造に関する授業では事前の構想に基づく制作体験が多く,知識・技能が重視される一方で,省察・共有する内容が少ない傾向を確認した。そこで,素材との関わりを重視する授業を実践し,当領域固有の「見方・考え方」を修得させる成果が得られた。さらに,幼稚園教員・保育士養成系専門学校の造形科目にて実施されている塑造表現を取り上げ,プレフィグラツィオンの観点から分析した。その結果,粘土との触知的な関わりによって発生する感性的対応や協働者との相互的な鑑賞作用に基づき展開・可視化される形成過程を学習成果に見取ることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
シラバス調査から構築した基礎資料の分析を通じて,教員養成系大学の彫刻表現に関わる授業内容の全国的な傾向を把握した一連の研究成果は,大学美術教育学会学会誌に掲載された。また,地域の美術館と連携し,大学の授業と関連させた市民対象の教育普及活動とシンポジウムを,小林古径記念美術館での展覧会「生誕90年 岩野勇三彫刻展」で開催し,本研究の進捗状況とその意義を研究機関や地域社会に広く示すことができた。 基礎資料の分析を基に,教員養成で相応しい彫造に関する授業について実践した研究は,大学美術教育学会で発表した。そして,幼稚園教員・保育士養成系専門学校の造形科目における塑造表現の実践を検証した研究は,聖ヶ丘教育福祉専門学校紀要に掲載されたように,本研究の視座から授業実践を検証し,具体的展開を伸展させることができた。 しかし,授業で扱うべき国内外の重要な作例の実地調査により資料を収集し,表現と鑑賞の教材について考案・作成することも,本件研究の重要な目的として計画していたが,令和3年度もコロナウィルスの影響が収束せず,海外はいうまでもなく,国内の実地調査も中止せざるをえなかった。また,シラバスの検索から抽出された他大学の特徴的な授業の取材も予定していたが,県外への移動を伴う研究の進捗は滞っている。
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Strategy for Future Research Activity |
今後も,構築した基礎資料を基に,大学の授業の目的や授業間相互の関連性等,シラバスの内容と構成について,小・中・高等学校で使用される美術の教科書とも内容を照らしながら引き続き精査していく。シラバスの検索から抽出された他大学の特徴的な授業について,コロナウィルスの影響による社会状況に応じて可能な限り,多様化する大学の実態を含めて授業の取り組みを取材する。そして,各大学の取り組みと照応しながら,授業を考案し,代表者,分担者,研究協力者の各研究機関で実施・検証する。鑑賞教材の作成に向けた作例の実地調査・資料収集についても,社会状況に応じて着手していく。併せて,令和3年度に実施した地域の美術館と連携した教育普及活動について,活動内容の記録を分析し,シンポジウムで確認した各大学の授業の目的と構造を検証する。それらの検証内容を基に,教員養成系大学において相応しい彫刻表現の授業について明らかにしていく。
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Causes of Carryover |
研究2年目までに,国内外の重要な彫刻表現の作例の実地調査から資料を収集し,表現と鑑賞の教材について具体的に考案・作成する計画であったが,コロナウィルスの影響が収束せず,海外はいうまでもなく,国内の実地調査も中止した。また,シラバスの検索から抽出された他大学の特徴的な授業の取材も予定していたが,実施することができなかった。したがって,次年度以降に行う実地調査のための旅費956,865円と実地調査を基に教材の作成を補助する学生への謝金等の人件費150,000円を繰り越した。
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Research Products
(3 results)