2021 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
20K02933
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
加藤 毅 筑波大学, 大学研究センター, 准教授 (10233800)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 建学の精神 / 大学マネジメント |
Outline of Annual Research Achievements |
令和3年度は、建学の精神に関連する政策動向、大学職員による建学の精神の認知・関与等に関する定量分析、インテンシブなフィールド調査を中心とする研究活動を実施した。 第一に、建学の精神に直接関連する公的政策が質的に変容しつつある社会状況について、整理と分析を行った。2021年6月に設置された「学校法人ガバナンス改革会議」ではコーポレートガバナンスの専門家を中心として議論がすすめられ、歴史的に形成されてきた学校法人の特性(建学の精神の推進機関となりうる現在の評議員会の制度設計)への配慮に欠ける厳しい内容の報告が行われた。学校法人による組織的決定の在り方だけではなく、プロジェクト単位でも私学が自主性を発揮することが難しくなりつつある。例えば、大学が国の未来を牽引するための政策手段として明確に位置付けられ(教育未来創造会議)、また「地域中核・特色ある研究大学総合振興パッケージ」では、1.大学の特色や強みを伸ばす取り組みをきめ細かく伴走支援する、2.研究力の強化や地域の課題解決などに貢献するよう大学が自ら変わることを促す、という新たな政策スタイルが提示された。 第二に、大学職員に関する調査データの再分析を行った。建学の精神に対する共感や関与が、価値実現への貢献や働き方、学習に対する積極的態度につながっていることが明らかになった。 第三のインテンシブなフィールド調査では、新型感染症の沈静化を受けて、私立大学に附設された自校博物館への訪問調査を実施した。バイタリティに溢れる創設者は、時代状況や教育段階に応じて多数の異なる魅力的な理念やビジョンを柔軟に使い分けることで、今日の礎を築いた。他方、現在掲げられている教育理念は、そのなかの限られた一部だけが抽出・拡大解釈され、時間をかけて整備されたものであった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
近年になり、高等教育政策が内閣府主導によって強力に進められてきた。大学に対して政府の政策手段としての役割が強く要請されるという社会状況のもとで、本研究の中心課題が大きく難化することとなった。当初は私立大学の存在意義であるはずの建学の精神の具現化を活性化するための手法開発を中心課題としていたが、今後の私立大学に対して、「我が国の未来を牽引する」機関に対する政府からの多大な要請に応えつつ、これと並行して独自の価値(建学の精神)の具現化を図っていくことが求められるようになる。この課題に応えるべく、開発中のマネジメント手法の拡張に向けて取り組みを始めている。 新型感染症感染防止対策のため、現地訪問調査の実施および研究補助者を活用したデータベース作成について、当初の予定より作業が遅れている。
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Strategy for Future Research Activity |
近年になり高等教育政策が内閣府主導によって強力に進められ、大学に対して政府の政策手段としての役割が強く要請されるようになった。このことにより、悪化する経営環境への対応に加えて、固有の社会的価値(建学の精神)を存在意義とするNPOとしての大学と政府の間の緊張関係が高まりつつある。政府とNPOの関係性について改めて理論的整理を行うとともに、建学の精神の具現化という難度の高まる理想の実現(そのためのマネジメント手法開発)に向けて、インテンシブなインタビュー調査などを通じて建設的な議論を展開していく予定である。
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Causes of Carryover |
新型感染症の拡大防止のため、訪問調査の実施と研究補助者の雇用について自粛を行なったため、次年度使用額が生じた。 感染症対策の緩和に伴い、これらの作業を再開する。
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