2021 Fiscal Year Research-status Report
An empirical study of resource allocation and research perfomance of faculty
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20K02968
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
藤村 正司 広島大学, 高等教育研究開発センター, 教授 (40181391)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 国立大学法人化 / 財務諸表 / パネルデータ / 負の二項分布 |
Outline of Annual Research Achievements |
2021年度の研究実績は、(1)国立82大学法人について2005~2019年の「財務諸表」(損益計算書)からパネルデータを作成し,国立大学法人の経営行動を経常収益(収入源)と経常経費の二つの面から大学類型別に横断的・縦断的に可視化した。 法人化の第1期から第3期までの経常経費の変化が示したことは,教員人件費が2005年の33.9%から2019年の26.1%まで7.8%ポイントも減少していることである。ただし、大学類型の特性をみると,無医総大,文科大,そして教育大では教育人件費が減少する半面で,教育費が8~9%から13~16%の範囲で増加し,附属病院を擁する国立大学では診療経費が19%から26%まで増えている。運営費交付金が削減が教員人件費につながり、我が国の研究生産性の低下に繋がっているが、病院をもつ国立大学は診療経費で収入を得るため規模を拡大する。無医総大や文系・教育系大学は、教育費のウエイトを相対的に高めている。 以上は、NPMの影響を色濃く受けた法人制モデルの特徴である。 (2)2021年12月に,資源配分の変化が教員個人の教育研究活動に与えるメカニズムを明らかにするために国公私立大学教員1万人に対して、個人研究費と競争的資金と論文生産性の関連を伺う質問紙調査を設計し,3月末現在で2,747人の回収(回収率27.4%)を得た。主たる成果は、負の二項回帰分析を用いて過去3年の査読付き論文数に対する資源配分の効果を検証すると、性、職階、分野、任期有無、そして教育・研究時間などを統制してもなお、個人研究費が10万円増えると期待論文数を3%増加させるときに、競争的資金は1%増えるに留まる。しかし、個人研究費の1標準偏差の増加(約21万円)は期待論文数を6.5本増えるときに、競争的資金の1標準偏差の増加(約360万円)は26%も増加させる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2021年度は、研究計画に従って、理論的研究の枠組みとして,2020年度に引き続き高等教育組織論(新制度主義、組織生態論、イナーシア)と大学財政・経営論に依拠して分析を進めた。次いで、縮小均衡にある国立大学の財務の実態を明らかにするために大学院大学を除く国立82大学の2005年から2019年までのパネルデータを作成した。 具体的には、経常収益の変化が経常経費や外部資金の獲得行動、基金の構築につながるのかを大学類型別に可視化しつつ、教員人件費と学生一人当たりの教育費を従属変数とする固定効果モデルを計測した。重要な知見は、同じ運営費交付金削減というタイトな財政環境であっても、大学類型間はいうまでもなく、同じ大学類型内でも法人化第3期間で個別大学間で二極化(教員人件費の補填できる大学と縮小均衡する大学)が進行している点である。 さらに、研究実績の概要で示した通り、全国の国公私立大学教員2,700人のデータベースが構築できたことである。これによって設置者・世代別・分野別に個人研究費と外部資金がどの程度研究生産性を規定するのか明らかにされる。 以上の研究成果は,「財務諸表から見た国立大学法人の経営行動-格差拡大と縮小均衡」『大学論集』第54号、71-85頁、『デーから読む高等教育の構造:日本型システムのゆくえ』(玉川大学出版部,2022年3月)で著した。以上のことから、現在までの進捗状況については、おおむね順調に進展していると判断できる。ただし、新型コロナウィルス感染で本年度も県外移動が困難であったため、学内の資源配分の事例が十分に集まらなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度の2022年度は、研究計画に従って財政圧力下にある国立大学の行動をミクロレベルで検証する。上述した2021年度で作成した個票データを用いて教員の論文生産性を規定する要因を明らかにしつつ、限られた資源のなかでいかにして効率的・効果的に教育研究活動を活性化させるための政策的提言を盛り込んだ、立体的な最終報告書の作成に努める。 とりわけ、国立大学内部で財政逼迫の影響と外部資金獲得の戦略と部局への資源配分の流れを精査するために取材を継続する。統計分析の解釈を豊かにするために、2021年度で新型コロナ禍で取材できなかった財務担当理事・副学長への訪問調査を行う予定である。ただし、オミクロンの感染拡大の情勢を考慮しつつ、安全を期して実施する。あわせて、オンラインを活用したヒアリング調査の代替も探る。教育系大学と総合大学(病院有)を予定している。
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Causes of Carryover |
次年度使用がプラスになった理由は、以下の通りである。まず旅費については、引き続き新型コロナ禍で出張旅費が消化できなかったことが大きい。また、謝金については、アンケートのデータ入力と自由記述の一部を業者委託から学生アルバイトを導入したため予想よりも経費が要しなかったこと、加えて1万人配布のアンケートの回収率が27%であったために、これも当初見積もっていた後納郵送費(回収率30%想定)の経費が低くなった。 2022年度では新型コロナ禍の回復が期待されることから、予定通り取材を重ね、国立大学における学内の資源配分の事例収集にあたる。国立84大学の財務諸表のパネルデータと教員アンケート調査の実態分析を重ね合わせて、国立大学における効果的な資源配分のあり方を探りあてるために立体的な報告書の作成にあたりたい。
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