2021 Fiscal Year Research-status Report
重度・重複障害児の能動的な学習を促進する学習内容と学習環境の設定に関する研究
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20K02999
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Research Institution | Hiroshima Shudo University |
Principal Investigator |
樋口 和彦 広島修道大学, 人文学部, 教授 (80710110)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 生態学的視点 / 教育・療育の風土 / 教師と子どもの価値観 / 活動設定 / 能動的 |
Outline of Annual Research Achievements |
特別支援学校および地域療育センターにて、定期的に、児・児童・生徒の学習活動の観察とケーススタディを行った。行動セッティングのシステム構造の評価(樋口, 2021:以下、行動セッティングの評価とする)を基に生態学的視点から活動を評価し、活動内容と学習環境の改善を行った。 活動を計画する際、特別支援学校では「授業」としての枠組みを重視していた。授業や学校の定型的な活動の要素を取り入れ、学級活動、各教科に類する授業が行われていた。例えば、朝の会(学級活動)では、個名、予定の伝達、天気調べなどの定型的な活動が設定されていた。地域療育センターでは、幼稚園や保育園に類する活動が主で、子どもの興味に合わせて活動設定していた。朝の会では、個名や予定の伝達などの活動の他、遊び(歌遊び、揺れ遊び、感触遊びなど)の活動を取り入れ、子どもとの応答関係を重視したかかわりが多かった。 これらの内容を行動セッティングの評価に即して評価する。まず、前年度重点的にて検討した、⑤構成員の価値観について述べる。両施設の差異は、教育・療育施設の風土の違いによると考えられた。特別支援学校では、教師が教育目標に基づき活動を計画していて、教師の意図が多く含まれていた。地域療育センターでは、子どもの価値観に合わせた活動を計画していた。この内容は、①活動の目的と役割にも関連しており、教師・指導員と児・児童・生徒、どちらの価値観がより活動に与える影響が高いか、さらに検討する必要がある。 両施設とも②構成員の役割については、児・児童・生徒の行動セッティングでの役割を明確化しておらず、③構成員の役割の階層についても役割が決められていないことから、形成されていない。②および③の要素を各施設の活動に入れて検討していきたい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では、広島県内特別支援学校、神奈川県内地域療育センターの協力を得て、定期的にカンファレンスが行われている。新型コロナウィルスの感染状況から、対面での行動観察できない状況が続いた。しかし、状況が改善し、対面での観察やカンファレンスが可能となり、データの収集と活動検討が行えるようになった。 特別支援学校と地域療育センターでは、施設の設置の意図、対象とする子どもの年齢が異なり、生態学的な比較検討に適している。施設の活動計画と児・児童・生徒の能動性の関連を検討することで、生態学的に異なる環境の比較が効果的にできている。特別支援学校では学校で伝統的に行われてきた活動内容、地域療育センターでは幼稚園や保育園に類する活動と、基盤となる考え方に差異があり活動計画決定に大きな影響を与えている。 本年度は、両者を比較することで、行動セッティングの評価の区分と項目の検討を行った。現在、行動セッティングの評価の5区分のうち、①活動の目的と役割と⑤構成員の価値観の2区分について、検討が進んでいる。これに関しては、施設の風土が教師・指導員の活動計画に影響を与えている。今後、活動計画を立てる際の特別支援学校の教師が「風土」と「児・児童・生徒の価値観」をどのように取り込んでいるのか、②地域療育センターの指導員が基礎として考えている理論等について検討していきたい。また、特別支援学校と地域療育センターの活動を、教師と指導員がお互いに観察し、議論することで、「重度・重複障害児の能動的な学習を促進する学習内容と学習環境の設定」をするためのより効果的な方法を検討することが可能であると考えている。 さらに、②構成員の役割、③構成員の役割の階層の区分に関しても、①および⑤の手法で、検討していきたい。
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Strategy for Future Research Activity |
特別支援学校と地域療育センターの比較により、行動セッティングの評価の区分と項目の検討が進んでいる。次年度は新たに、特別支援学校と地域療育センターの活動を、教師と指導員がお互いに観察し、議論する機会を設けたい。当事者が議論することにより、両者の価値観や生態学的風土の違いが明確になると考えている。 観察対象の施設が広島県と神奈川県の所在し、距離が離れているため、新たに分担研究者として広島県2名、東京都1名を依頼した。研究代表が、各施設を訪問する際に同行し、観察を行うことになっている。また、観察対象のクラスが複数あるため、そのクラスの教師および指導員との打ち合わせを分担して行うことにした。このことにより、各ケースを詳細に検討することが可能になる。 これらを通して、行動セッティングの評価(樋口, 2021)の区分と項目の検討を行うとともに、具体的な活動内容の事例を加えて、表を拡充していきたい。
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Causes of Carryover |
コロナウィルス蔓延のため、次のような事態が生じた。1①研究協力校に直接訪問できず、必要な機器等の購入計画が遅れた、②協力者の必要な物品の購入が遅れた、③学会への参加がオンラインになったり、研修会が中止になったりした。 ①と②については、今後訪問の機会が増加するため、当該助成金の支出につながると考えている。特に、ビデオカメラや映像を処理するソフトウェア、記録メディアの補充は必須である。 ③についても、今後は、対面での開催が増加すると思われる。そのための旅費等が必要である。さらに、情報収集のための旅費の執行も予測される。
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