2022 Fiscal Year Research-status Report
ADHD児童の中枢性疲労における行動・認知・分子基盤の解明
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20K03013
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Research Institution | Tezukayama University |
Principal Investigator |
山本 隆宣 帝塚山大学, 心理学部, 客員研究員 (60191417)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
山下 雅俊 福井大学, 子どものこころの発達研究センター, 特命助教 (50828928)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 中枢性疲労 / 注意欠陥多動症(ADHD) / 尿中トリプトファン / 易疲労感 / 不注意行動関連因子 / 睡眠障害 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究期間のほとんどが新型コロナ感染症の状況下での研究を強いられ、ADHD児を対象とした尿採集はおろかアンケートさえも協力を得ることができなかった。幸い所属研究機関で大学生195名を対象にしたAASS尺度のアンケートおよび尿サンプルデータを取ることができた。その結果、ADHD傾向の不注意群の中枢性疲労/精神疲労度は多動・衝動群よりも高く、さらに尿中ノルアドレナリン代謝物質の亢進とドーパミン代謝物質の低下がみられ、モノアミン神経系のアンバランスを示唆していた(第25回認知神経科学会学術集会、第85回日本心理学会にて発表)。一方、中枢性疲労/精神疲労の原因物質に関して、我々はトリプトファンの脳内亢進原因説を唱えてきたので、ADHDの不注意特徴と易疲労性との間に相関があるのではないかという仮説を提案している(第27回認知神経科学会学術集会)。また、幾つかの精神疾患において、ICD-10、ICD-11およびDSM-5の診断基準には疲労感、易疲労性が明記されているが、ADHDに関しそのような記載がないので、今後の課題として、アンケートにより睡眠の質や量と精神的/身体的疲労感の有無の調査を実行する予定である。加えて、認知的特性の調査として、意欲、運動の器用さ、注意の持続、注意の転導性を調査し、この点についてはいまだ明らかにされていないのでADHDの特徴を捉えるために調査研究を進めていかなければならない、このように徐々に明らかになってきた点を線でつなないだ一部を今後の展望も含めて(レビュー論文を)国際科学雑誌;Neurochemical Research,Volume47, Issue9, pp2890-2898, September (2022)に公表した。 今後、ADHD児童を含む神経発達障害のアンケートにより中枢性/精神疲労の有無を調査し、行動、認知、分子の基盤を解明していく。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究課題はまずADHDを対象にして中枢性疲労との関係を解明することである。大学生による調査では不注意傾向と中枢性疲労との間の相関を階層的重回帰分析により調べ明らかにすることができた。次に分子基盤として、尿中の解析ではモノアミンのアンバランス説を提唱することができた。このアンバランスは疲労時に脳内に取り込まれるトリプトファンの亢進が認知活動のホメオスタシス機構を変化させているとする可能性にまで迫ることができた。ところが、研究計画の最後の段階で、一部の研究遂行が長引く新型コロナ感染症による3年間に及ぶ社会機能の停止が大きく影響し、研究協力が得られずADHD児童の疲労状態の実態を直接調べるところまでには至っていない。この調査による情報収集によりほぼ当初の予定を達成できる。
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Strategy for Future Research Activity |
ADHD児童の疲労状態の実態を直接調べるところまでには至っていない点について、解明すべく研究を推進するめどがついてきた。奈良県庁の障害福祉課にアンケート協力の要請をしたところ、快く引き受けていただき、課が管轄する奈良県下の障害施設事業所の約200カ所にアンケートの配布をしていただけることになった。まずはこの実施に所属研究機関の研究倫理審査委員会に提出し、承認されるべく手続きが残っている。
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Causes of Carryover |
研究期間のほとんどが新型コロナ感染症の状況下での研究を強いられ、外部のADHD児を対象とした尿採集はおろかアンケートさえも協力を得ることができなかった。しかし3年間の研究でADHDの不注意特徴と易疲労性との間に相関があるのではないかという仮説を立てることができた。これはICD-10、ICD-11およびDSM-5の精神障害の診断基準には疲労感、易疲労性が明記されいるがADHDに関しそのような記載はまだがない。幸い今日では社会活動もコロナ感染症前に戻ってきており、今後の課題として、アンケートにより実際のADHD児を対象とした、睡眠の質や量と精神的/身体的疲労感の有無の調査実行が可能になってきた。疲労感の有無のみならず、研究課題にも含まれる認知的特性の調査として、意欲、運動の器用さ、注意の持続、注意の転導性も調査していきたい。研究協力に関して謝金等の経費も今後の実施で必要とされる。さらに国際的展開として、デンマーク オーフス大学で心理学者、神経科学者との面会で、ADHD児の生活支援、教育支援、心理介入支援そして社会参加支援などの情報収集を行う予定である。これらの渡航費、宿泊費等も必要とする。今後、ADHD児童を含む神経発達障害のアンケートにより中枢性/精神疲労の有無を調査し、行動、認知、分子の3つの基盤を解明していく。
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