2020 Fiscal Year Research-status Report
通常学校で学ぶ聴覚障害児の語音聴取の機序と無線補聴システムの要件に関する研究
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20K03054
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Research Institution | Seirei Christopher University |
Principal Investigator |
大原 重洋 聖隷クリストファー大学, リハビリテーション学部, 教授 (90758260)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 聴覚障害 / 難聴 / 無線補聴支援システム / 雑音負荷語音明瞭度 / インクルーシブ環境 |
Outline of Annual Research Achievements |
令和2年度は、インクルーシブ環境にある児童・生徒における無線補聴支援システムの効果と評価手法について検討した。両側感音難聴児7名(平均8歳6カ月)の資料を解析した。補聴器装用5名、人工内耳装用2名であり、良聴耳平均聴力閾値:平均78.9±18.6dBHL、装用下閾値:平均33.6±6.4dBHLであった。 ①雑音負荷語音聴力評価(67S語表):被検児の前方1m正中線±45度に2台スピーカを設置し、右(45度)から検査語音、左(-45度)からスピーチノイズを呈示した(静寂下からSN比-5dB)。②主観的評価:視覚的アナログスケール(VAS)、聞こえの感覚尺度(SSQ)。マイク入力(補聴器・人工内耳マイクより単独入力)と無線入力(無線遠隔通信の送信機マイクを併用)の2条件で比較した。 その結果、雑音負荷語音聴力では、マイク入力の明瞭度平均は、静寂下:88.5±5.5%、SN比5dB:82.1±12.8%、SN比0dB:72.8±14.3%、SN比-5dB:62.8±17.5%であり、雑音状況が高まるにつれて顕著に低下した。一方、無線入力では、94.2±8.8%、85.7±9.3%、82.8±14.3%、84.2±9.3%であり、雑音状況に関わらず明瞭度は良好であった。VASでは、マイク入力で低下し(55.7±23.7%)、無線入力で静寂下と同等の良好な値を示した(95±5%)。さらに、マイク入力のSSQ得点(10点満点)は、集中項目5.1±1.7、努力項目5.7±3.1、注意項目5.2±2.2であり中程度の困難を認めた。一方、無線入力では、9.4±0.6、9.3±1.1、8.6±1.1と軽減し、聴取努力の顕著な改善を認めた。 無線補聴支援システムの評価では、雑音負荷語音聴取成績に加え、児童・生徒の教室場面での主観的な評価を用いることの有効性を指摘できる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究の進捗は概ね順調であるが、以下の点について、次年度以降、継続した研究が必要と考える。 (1)令和2年度は、雑音負荷語音聴力評価について、ASHAのガイドライン(2002)に基づき、被検児の前方1mの位置で、正中線±45度の左右位置に2台スピーカを設置する手法を用いた。しかし、被検児右45度より検査語音、左45度よりスピーチノイズを呈示し、両者の距離が離れた条件により、方向性マスキング解除(Spatial release from masking : SRM)が生じ、目的音検知能力が向上した可能性がある。また、左側のスピーチノイズは頭部遮蔽効果により右側のマイク入力位置において音圧が減衰し、相対的にSN比が改善した可能性もある。本研究対象児の2例が右耳に人工内耳を装用し、5例は補聴器両耳装用であるが良聴耳は右耳であり、右前方より呈示された語音の聴取が容易であったことが考えられる。その他、スピーチノイズに対して補聴器の騒音抑制機能や自動利得調整回路(AGC)による圧縮増幅が作動し、騒音下の音声聴取が改善した可能性も考えられる。今後、片側前方(正中45度)より呈示したスピーチノイズが、同側と反対側のマイク入力位置で検査音圧として同等に遮蔽しているか等、本検査方法について検討が必要である。 (2) 聴取努力の評価については、聞こえの感覚尺度SSQ(Speech, Spatial and Qualities of Hearing scale)の下位3項目(14.集中項目、18.努力項目、19.注意項目)を用いた。しかし、質問内容が高度で小学生には回答が困難であったため、質問の各項目内容について、対象児が理解できるよう口頭で説明を加える必要があった。次年度には、構成の工夫やイラスト等を加えることによって言語の負担を軽減した評価手法を検討する必要がある。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究は、以下の通り進める予定である。 (1) 無線補聴支援システムにおける雑音負荷語音聴力評価について、無線送信機マイクへの雑音の直接入力を避け、検査音の遮蔽効果を高める構成条件を検討する。令和2年度の配置と、スピーカ2台を正面0度(語音、雑音)、スピーカ2台を正中線±45度(雑音)と1台を正面0度(語音)に配置する手法を比較し、語音明瞭度におけるスピーカ構成条件の関与を明らかにする。 (2) 言語の負担を軽減した聴取努力の評価法については、幼児期から学童期の聴覚障害児より、縦断的にデータ採取を進め、聞こえの感覚尺度SSQと同程度の感度を持つ手法を開発する。
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Causes of Carryover |
当初、無線補聴支援システムの調整用の機材の購入を計画していたが、令和2年度には、被検児を得て同機材を用いた調整・測定が困難となったため、機材の整備を1年単位で遅らせることにした。 次年度は、令和2年度購入予定であった補聴器特性装置、REMモジュールと、令和3年度購入予定の無線補聴システム(送信機)を併せて購入する予定である。
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