2020 Fiscal Year Research-status Report
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20K03127
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Research Institution | Aomori University |
Principal Investigator |
佐藤 昌泰 青森大学, 薬学部, 准教授 (60382579)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
大越 絵実加 青森大学, 薬学部, 教授 (10287667)
水谷 征法 青森大学, 薬学部, 講師 (60594851)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 学生エンゲージメント / 薬学教育 / 教育の質保証 |
Outline of Annual Research Achievements |
教員から学生への、対話による動機づけプロセスから生じる情緒的エンゲージメントが、薬学教育におけるアウトカム基盤型教育の質保証を担うと考えた。本研究では、学生エンゲージメントを促すための「教員による関与」と「学生の心理的発達」の2つに焦点を当てる薬学教育プログラムの構築を目指している。 【具体的内容】2020(R02)年度は、主体的な学習活動が見込まれる学生(薬学部4~6年生)を抽出した。その学生らに対し「学生の心理的発達」を促す課題として [地方創生] を挙げ [地域で不足する医療従事者(薬剤師)の確保] を提示した。この課題の解決を軸に、学生が獲得する「思考力・判断力・表現力」と、「薬剤師に求められる基本的資質」を修得するプロセスの調査(5年間)を開始した。学生は、課題の解決策として、薬系人材の創出のため大学入学前の生徒を対象とした「学びをつなげる」教科横断型の教材開発に取り組んだ。構築したプログラムは、体験型学習イベントの中で試験的に一部の内容を実施した。学生が開発した教材内容について「教員による関与」として教員指導のもと、学生は、全国規模の学会にて成果発表を行った。 【意義】学生の学会発表へ挑戦は、教員から学生への、対話による動機づけプロセスから生じる情緒的エンゲージメントが、課題努力や協働性と関連することを示唆した。これらの行動は、アウトカム(資格取得)には直接関連しないが、教育の「質保証」が求める課題解決力や自己研鑽力に効果があると思われた。 【重要性】大学入学前の生徒を対象とした薬学的な概念の形成を図る教材開発という課題は、学生が「次世代を担う人材を育成する」という薬剤師の使命を認識する動機づけに重要であると考えられた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
1~4の実施状況から、当初計画の遂行の見通しはある程度ついているとして、おおむね達成できたと考え、この判断とした。 1.大学入学前の生徒を対象とした教科横断型の教材開発は、文部科学省の中学校・高等学校学習指導要領と、薬学教育モデル・コアカリキュラム(平成25年度改訂版)を参考にした。自然の事物・現象について科学的に探究する学習を重視し、かつ、薬学的な概念の形成を図る体験型の化学実験プログラムを構築した。 2.構築プログラムは、60~90分プログラムとし、大学入学前の生徒を対象とした薬学部オープンキャンパスや、大学主催の地域貢献活動である体験学習イベントの中で試験的に一部の内容を実施した。 3.学生らは、開発教材について日本薬学教育学会、日本薬学会141年会(広島)の学会(Web開催)にて成果発表を行った。 6年制大学の学生にとって、学会発表は大きな負担であり、苦しいものである。学生の学会発表へ挑戦は、教員から学生への、対話による動機づけプロセスから生じる情緒的エンゲージメントが、課題努力や協働性と関連することを示唆した。対話による指導から学生が、プレゼンテーションの準備、予測できない質疑応答の展開、説得力をもって対処する思考を巡らせて、「共感・理解・自信」という見えない自己の価値を認識していることが考えられた。 4.抽出された学生は、どのような「教員による関与」を経て主体的な学習活動に至るのか、背景としてスループット(成績GPA、単位修得率)、結果として表れるアウトカム(資格取得率、就職率)の追跡調査(5年間)を始めた。
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Strategy for Future Research Activity |
「教員による関与」と「学生の心理的発達」の2つに焦点を当てる薬学教育プログラムの構築を目指している。 しかし新型感染症の蔓延により教員の仕事の量や質が変化しており、Web上ですべてをカバーするような非現実的な期待や、見通しの立たない不確実なリスケジュールが生じている。このような状況下の大学教育でも著しい成長が見られる学生が存在する一方で、その多様性に十分な適応ができない事例が一部認められた。そしてこの適応能力の差は、学生間の協働性に感情的な揺らぎを招いた。 今の社会は、変化の激しい、先行き不透明な、厳しい時代である。適応する学生は、ギリギリの状況すらも対応し、協力して様々な情報を見極め、再構成し「未来を切り拓いていくための資質・能力」として発展させた。この力を個々のリーダーシップと捉え、資格取得の性質を持つ薬学においても重要な資質であると考えた。加えて動機づけを行う教員の能力として、この適応能力の差を見極める視点、そして適切に補完する能力の重要性を浮き彫りにした。 次年度以降は、教員から対話による動機づけを学生に対して真摯に誠実に働きかけ、継続的に課題解決の教材開発に取り組む。学生は、体験プログラムの改善点抽出のため、大学入学前の生徒を対象に実施した体験プログラムのアンケート調査を解析して、その学習効果の検証を進める。学生に関与する教員は、適応能力の差を考慮に入れ、計画を遂行する。
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Causes of Carryover |
コロナ禍の影響で、当初予定していた物品、衛生用品、器材の入荷が未定/延期となった。しかしさまざまな関係各所の協力により研究計画の準正規プログラムは規模を縮小して実施し、対象者へのアンケート調査はできた。しかし、2020年8月から12月にかけて予定していた成果の報告や研究進展のための学生による学会発表の場が一部中止・延期となった。そのため当初計画を見直し、2020年度に旅費として計上していた予算をオンライン開催される学会で発表するための経費とし、遠隔地からのライブ配信による学会発表を円滑に行うための機材を整備した。また、使用額の一部を次年度に繰り越すことにした。今年度に入ってもまだこの状況が改善しておらず、今年度実施できたことが、次年度同様に実施できるかまだ見通しが立たない。しかし、できる限り上述した内容について計画通り進めていきたい。
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