2020 Fiscal Year Research-status Report
小・中学校理科における「ものづくり」の指導方略の洗練化に関する研究
Project/Area Number |
20K03201
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Research Institution | Utsunomiya University |
Principal Investigator |
人見 久城 宇都宮大学, 共同教育学部, 教授 (10218729)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 理科教育 / ものづくり / 授業研究 |
Outline of Annual Research Achievements |
第一に,日本の理科におけるものづくり活動の位置づけに関する基礎的考察をおこなった。その結果,理科における応用的・発展的な学習(ものづくり活動等)は,科学技術の事例を知識として学んだり,学習者がものを製作しながら技術的な側面を学んだりする活動として構成されていること,活動としての伝統も長いことが明らかになった。また,理科におけるものづくり活動は,その形態から,(1)学習で使う教材・教具を作るものづくり,(2)科学的原理の確認のためのものづくり,の二つに大別され,いずれも理科の中に応用的・発展的な学習として適切に位置付けられていることが確認された。その一方で,学習者自身が問題を見出したり,試行錯誤を繰り返したりするような形態はこれまで導入されてこなかったことが明らかになった。 第二に,日本のものづくり活動に類似する海外の科学教育の事例として,アメリカ・オレゴン州の事例を分析し,二つの特徴を抽出した。それらは,(1)エンジニアリング・デザインと連携させた学習は,自然科学の内容と密接に関連させた学習であること,(2)ストーリー性のある場面設定を工夫していること,であった。第一の特徴は,エンジニアリング・デザインと連携させた学習が,装置や玩具の製作活動のみに偏ったものではないと言い換えることができる。第二の特徴を具体的に見てみると,①児童生徒に対する状況の提示,②そこに解決すべき問題があることの説明,③その問題が何であるかの特定,④問題に対する解決策の考案,⑤その案の比較検討,⑥製作,試験等を通した最適解の選定,という流れが共通に指摘できる。この流れは,エンジニアリング・デザインの過程に正確に沿うものであると確認でき,学習活動が,既習の科学的原理や知識と関連するように,ストーリー性のある状況設定が重要な役割を果たしていることも認めることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
理科におけるものづくりの指導方略の検討を目的として,研究の第1年次である令和2年度は,日本の理科のものづくり活動の位置づけに関する基礎的考察を進めた。この成果を,日本科学教育学会において口頭発表した(人見,2020)。具体的には,次の点を指摘できた。(1)最新の小学校学習指導要領解説理科編(文部科学省,2018)において,理科におけるものづくり活動の展開に関して,これまでと異なる解説が示され,それは主体的な問題解決の活動の充実,日常生活や他教科等との関連などを図るための方策としての考え方が導入されている。(2)従来のものづくり活動を支える考え方には見られなかった「目的の設定」「計測」「制御」といったキーワードが特徴として指摘できる。(3)平成30年度全国学力・学習状況調査の小学校理科においても,「設定・計測・制御」にかかわる問題が出題されていることを確認した。これらから,従来のものづくり活動では導入されてこなかった,問題の見出し,試行錯誤を繰り返す活動など,新しい学習形態の充実が期待されることを指摘した。 令和2年度に予定した研究内容の一部は達成できたものの,新型コロナウィルス禍の影響により,学校現場と連携した調査や基礎的実践などは断念せざるを得なかった。授業の参与観察などは,当初の計画に照らして遅れが出ている。令和3年度も,新型コロナウィルス禍の影響によって,学校現場との連携は,状況によって変更を余儀なくされる可能性も否定できないが,可能な範囲で進捗させたいと考えている。令和3年度の研究内容として,((1)ものづくり活動の洗練化に向けた指導方略の検討,(2)実践を通した評価,等を進めていく予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
令和3年度の研究内容として,(1)日本のものづくり活動に類似した科学教育学習プログラムの分析,(2)ものづくり活動の洗練化に沿った指導方略の検討,等を進める予定である。(1)の事例としては,令和2年度までに分析したアメリカの初等中等科学教育プログラムの他に,数事例を入手しているので,それらを分析対象とする。(2)については,筆者の過去の研究成果をふまえ,ものづくり活動の指導における改善点を検討し,洗練化に沿う指導方略を策定していく。従来の指導方法であった応用的なものづくりの方向を踏襲するとともに,エンジニアリング・デザインの過程に対応する探究型のものづくりを指向した学習の展開を検討していく。 本研究を進めるなかで,探究型のものづくりを検討する上で,エンジニアリング・デザインからの示唆が有益であることを再確認している。理科は自然科学を基盤として学習内容が設定されていることから,答えがひとつに収束することが一般的であるが,科学技術,環境,エネルギーに関する学習では,解答や解決策はひとつとは限らず,むしろ立場や状況に応じて複数存在する。このような収束のしかたとなる学習では,複数の解答からの選択,価値判断,トレードオフなどの考え方の理解とその遂行が求められる。実社会における実際の問題に対する解答や解決策を得たり,そのために科学的知識を適用させたりすることをねらいとした学習を構想する上で,エンジニアリング・デザインの視点は,学習内容とともに学習指導に対しても重要な示唆を与えると考えられる。当初の研究計画を遂行するとともに,エンジニアリング・デザインに関する分析をさらに掘り下げて,本研究の充実を図りたい。
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Causes of Carryover |
アメリカの初等科学教育プログラムに沿った授業を実地にて参観し,分析することを計画していたが,新型コロナウィルス禍により,令和2年度内の海外渡航は断念せざるを得なかった。また,国内の学校現場と連携した調査や基礎的実践なども断念せざるを得なかった。授業の参与観察や授業実践が計画通りに進められないことから,令和2年度内の支出予定分は令和3年度に見送ることとした。 繰り越した研究費(約75万円)の使途は,アメリカへの調査旅費;30万円,アメリカの初等中等科学教育プログラム教師用指導書購入費;15万円,授業実践に要する教材購入費;30万円 である。
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