2020 Fiscal Year Research-status Report
わが国の初等・中等教育課程における遺伝教育の課題解決と遺伝教材の開発
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20K03216
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Research Institution | Kansai University of Welfare Sciences |
Principal Investigator |
山本 真紀 関西福祉科学大学, 教育学部, 教授 (60240123)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 遺伝教育 / 教科書 / アジア諸国 / 遺伝学用語 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、学習指導要領の改訂に伴って、大幅な削減や中等教育課程間の分断に見舞われている遺伝教育について、わが国の一般市民の遺伝リテラシーを担保するためにも、中学校や高校の理科、生物教員の支援が最も重要であると位置づけ、現職教員と諸外国の遺伝教育の実態調査との比較分析から新教育課程の課題解決を行うことを目的としている。2020年度は、インド、韓国、台湾で使用されている理科や生物の教科書等を入手し、遺伝教育の実態調査を行った。インドでは遺伝の概念とメンデルについて初等学校5年生(小学校5年生)で学び、中等学校10年生(高校1年生)でメンデルの実験、上級中等学校12年生(高校3年生)でメンデルの法則全てを学びヒトの遺伝や遺伝病も扱われていた。韓国では、中学校3年生でメンデル遺伝を全て学び、高等学校ではヒトの遺伝と染色体異常、変異による遺伝病まで取り扱われる。台湾では、小学校3年生~6年生で遺伝が扱われ、国民中学7年(中学校1年生)でメンデル遺伝を全て学ぶ。高級中学(高校)ではメンデル遺伝の応用として様々な遺伝現象から人類の遺伝まで学ぶ。遺伝学用語「優性」「劣性」については、インドでは英語の「dominant」「recessive」で、台湾と中国も同じ意味の「顕性」「隠性」が用いられている。韓国の教科書では「優性」「劣性」(優性ではないもの)が使われている。 日本の遺伝教育の最も大きな特徴は、中学校3年生と高校の選択科目「生物」の2回に分けて遺伝を学ぶことである。諸国との違いは、遺伝を分断して教え、ヒトの遺伝や遺伝病について触れず、従来の教育内容をも大幅に削除している点といえる。日本でも「顕性」「潜性」へと変更になり用語に改訂が見られたものの、国民の大半がメンデルの遺伝の法則を途中までしか学ばない国は日本のみであることが浮き彫りとなり、教え方の工夫が喫緊の課題であると考えらえる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
昨年度は、国内の遺伝教育に関するアンケートによる実態調査および、海外の遺伝教育の実態調査を計画していたが、次の理由により予定の実施を見送った内容があった。 国内の実態調査については、新教育課程施行との関連によりアンケート調査を先送りし、今年度に実施することとした。小学校は令和2年度にすでに新学習指導要領の完全実施がなされているが、中学校と高等学校の施行時期は、それぞれ令和3年4月、令和4年4月で、昨年度はまだ実施前であった。特に中学校と高等学校の新学習指導要領の遺伝に関する教育内容に課題があることからも、教科書が改訂された後が望ましい。小学校は施行済みであるが、中学校と高等学校の教科書の内容からアンケート内容を検討しようとしているため、小学校教員へのアンケート内容もそれに連動させたい。さらに、コロナ禍における教育現場の混乱の状況も鑑みたうえで、昨年度中のアンケートは実施を見送ることにした。 海外の遺伝教育の実態調査については、教科書調査ならびに渡航による実地調査も行う予定していたが、新型コロナ感染の影響により渡航が不可能となったため、教科書調査のみを行った。海外の教科書については、アジア諸国のインド、韓国、台湾を中心にインターネットおよび研究協力者の協力を得て各国教科書のPDFファイルや電子教科書を入手するなどし、調査を行った。その結果、インドでは小学校、中学校、高等学校の各段階における遺伝の内容を取り扱った教科書PDFを、韓国では中学校と高校の教科書資料から遺伝教育の内容を、台湾では国民中学(中学校)と高級中学(高校)の教科書やドリル等を入手し、メンデル遺伝についてそれぞれ取り扱われていることを確認できた。
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Strategy for Future Research Activity |
国内の遺伝教育に関する実態調査に着手する。この調査の目的は、現職教員の遺伝リテラシーを把握し、新学習指導要領に基づく遺伝教育の内容に対する課題を見出すことにあり、本研究期間内にその課題の解決方法を模索する。具体的には、新学習指導要領に対応して改訂された教科書を入手しアンケートを作成する。教科書入手については、中学校では新課程が令和3年4月から施行されているので問題ないが、高等学校の新学習指導要領の実施は令和4年4月であるため、試行前年の教科書サンプルを入手してアンケートを検討、作成する。アンケート作成の際には、中学校では「進化」の内容も「遺伝」にあわせて2年生から3年生へ移行している点も踏まえる。高校では図説もあわせて入手したい。アンケートが作成できれば、近畿を主とした全国の中学校(理科)と高等学校(生物)の現職教員へ遺伝リテラシーを含めた調査アンケートを依頼する。さらにこのアンケートに基づいて、小学校教員へも遺伝リテラシーや遺伝教育に関するアンケート調査を行う。同時に、本学学生についても遺伝リテラシーのアンケート調査を実施し比較資料とする。アンケート実施に当たっては、本学の研究倫理審査委員会の審査を受審する。アンケート内容は速やかに集計し、各学校の教員の遺伝リテラシーの傾向を把握し、新課程における問題点と解決すべき課題を見出す。 海外の遺伝教育の実態については、中国、シンガポールなど、アジアの他の地域についても教科書調査を進めていく。不足資料については実地調査も検討し、コロナ感染の収束状況に応じて渡航計画も立てる。具体的には、インド、シンガポール、韓国、台湾の各国について、渡航可能になれば本研究期間中に訪問し、遺伝教育を実施している小学校、中学校、高等学校を訪問して聞き取り調査並びに授業見学を行い、できる限り教科書や教材を入手したいと考えている。
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Causes of Carryover |
昨年度は、海外の遺伝教育の実態調査を計画しており、教科書調査ならびに渡航による実地調査も行う予定であったが、新型コロナ感染の影響によって渡航が不可能となり、国内外への出張を自粛したため出張費を使用できなかった。さらに、コロナ禍の影響と教科書の改訂時期の問題からアンケート調査を見送ったために通信費と謝金の使用も発生しなかった。次年度以降は教科書の改訂時期の問題も払拭されることから、アンケート調査準備のためのパソコンとプリンターを予定通り購入し、遺伝教材の開発のための実験準備として顕微鏡等の機器の購入に充てたが、出張費などの未使用分が残額となった。次年度使用額は、アンケート調査の通信費等の費用に充当する予定にしている。
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