2021 Fiscal Year Research-status Report
わが国の初等・中等教育課程における遺伝教育の課題解決と遺伝教材の開発
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20K03216
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Research Institution | Kansai University of Welfare Sciences |
Principal Investigator |
山本 真紀 関西福祉科学大学, 教育学部, 教授 (60240123)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 遺伝教育 / 教科書 / 日本の中等教育 / 新課程 |
Outline of Annual Research Achievements |
中学校および高等学校の現職教員に対するアンケート作成の予備調査のため、新課程が令和3年度実施の中学校と令和4年度実施の高等学校のそれぞれ新課程用教科書及び新学習指導要領の入手を進めて分析を行った。 中学校では、2社(大日本図書、啓林館)の教科書を購入した。「遺伝」に関わる単元「遺伝の規則性と遺伝子」について学習指導要領もふまえて「減数分裂」と「分離の法則」について比較検討したところ、2社ともに丁寧に本文で取り扱われていた。課題としては、生殖細胞の多様性の概念を理解させるには、「分離の法則」を教える際に教師が丁寧に補足する必要があるが、1社で配慮が見られた。 高等学校の「生物基礎」は5社の教科書を購入し(第一学習社、啓林館、実教出版、数研出版、東京書籍)、「生物」は未販売のため、5社の教科書情報や高等学校教員から見本品の情報を入手した。両科目について、中学校の「遺伝」の復習の取り扱いがあるかどうかを調査したところ、「生物基礎」では4社あり、その内1社は丁寧な説明が見られた。「生物」では3社に取り扱いがあったが丁寧な説明は1社のみであった。このように「生物基礎」と「生物」共に、「遺伝」に関わる内容について中学校との接続を配慮する傾向にあったが、必ずしも内容は十分ではなく、全く取り扱いのない教科書もあったため、課題として、減数分裂など遺伝に関する内容を取り扱う際には、教師の補足による復習が必要であろう。 さらに「ひらめき☆ときめきサイエンス」の小学校5、6年生向けのプログラムを本研究協力者と共に実施し、小学校での遺伝教育の可能性を検討したところ、小学生でも遺伝の概念的な学びが可能であるということが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
初年度(令和2年度)に、国内の現職教員を対象とした遺伝教育に関するアンケート調査を行う予定としていたが、中学校の新課程が令和3年度、高等学校の新課程は令和4年度よりそれぞれ実施のため、アンケート調査のための準備に必要な新課程の教科書が未販売であったことから、アンケートを次年度以降に変更した。さらに、コロナ感染拡大の状況を鑑みて、初年度の渡航計画は変更し、次年度(令和3年度)以降もアジア諸国への渡航調査研究実施の見通しが立たなくなったため、初年度は、諸外国の教科書調査を先行して一定の成果を得た。そして、次年度は中学校の新課程の教科書入手が可能となったので、高等学校の教科書は見本品などの情報を集めるなどして現職教員へのアンケート調査の予備調査に充てることとした。 調査の進捗としては、新課程の教科書ならびに新学習指導要領の分析の結果、「遺伝」を中・高の教育課程をまたがって教えることの弊害が、より具体的になってきた。その解決には、理科の教員が子どもの実態を良く把握し適切に補足の説明を行う必要があることから、現職教員へのアンケート内容を実態に即した内容になるように構想している。さらに、令和3年度「ひらめき☆ときめきサイエンス」による小学校5、6年生対象とした遺伝教育のプログラムを、本研究協力者と共に試みた。わが国での初等教育課程において、諸外国のように、中学校の遺伝教育への接続を目指した遺伝概念の養成が可能かどうか検証を行ったので、小学校教員を対象としたアンケートの可能性も検討している。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの調査分析の結果を整理した新課程の遺伝教育内容を踏まえ、遺伝教育についての意識や授業の課題等を問うアンケート調査作りを行い、関西圏の小学校、中学校、高等学校教諭を対象としたアンケート調査を実施する。市販にはまだ出回っていない高校「生物」の教科書が入手できれば、アンケート内容に反映させたい。 さらに、当初予定の研究計画通り「研究成果の発信と議論による課題の深化」のため、関連学会((一財)染色体学会)で主催予定の教育講演会「日本の科学教育を考える」において、研究代表者は、主に遺伝教育の課題と改善方策についてこれまでの本研究成果を踏まえて報告を行う。他には、①学校現場から(中・高教員)、②海外教育との比較(大学教員・本研究協力者)、③女性の科学教育(大学教員)の観点で講演が予定されており、②の講演は、本研究の研究協力者により初年度の海外の教科書調査等の成果を踏まえた発表が行われる。講演後にパネルディスカッションとして、わが国の遺伝教育の課題について議論を行う予定である。参加者は学会員だけでなく、広く一般参加とするため、各地の教育委員会、現職教員、大学教員、中高生、一般市民に広く参加を募る。日本の遺伝教育の現状と課題を理解していただくことと、多様な立場からの意見を期待している。 また、今年度も「ひらめき☆ときめきサイエンス」が採択され、研究協力者と共に、中・高校生を対象とした遺伝教育プログラムを実施する予定である。新課程で学ぶ中高生に対して、生徒側の意見を聞いたり、遺伝教材を準備・作製して習熟度等の評価を行ったり、その効果や成果を検証したいと考えている。
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Causes of Carryover |
当初予定では、当該年度はアジア諸国(インド、シンガポール、台湾等)への渡航による実地実態調査を予定していたため、外国旅費の計上が大きかったが、コロナ感染状況を鑑みて渡航研究を見送ったことにより経費の次年度使用となった。 今年度の使用計画としては、大規模なアンケート調査と分析作業にその費用を充てたい。さらに、今年度実施予定の「ひらめき☆ときめきサイエンス」(中・高校生対象)において得られた知見や情報および、染色体学会招待講演による本研究成果発信と議論の内容を踏まえて遺伝教材の試作に取りかかりたいので、教材試作のための予備実験に必要な器具や試薬の購入も予定している。
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