2020 Fiscal Year Research-status Report
組織で働くシニア世代の心理的障壁の発生機序とその克服マネジメントに関する研究
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20K03294
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
池田 浩 九州大学, 人間環境学研究院, 准教授 (80454700)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | ワークモチベーション / シニア / 心理的障壁 / 社会情緒的選択性理論 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、シニアのモチベーションの個人差を説明する概念として、加齢ではなく、新たに「心理的障壁」たる概念を提唱する。そのために、①心理的障壁の概念と測定尺度の確立、②心理的障壁の発生機序の解明、③組織現場においてシニアの心理的障壁を克服するためのマネジメントの検討に注力することで、実践的な示唆を提供することを目指していく。そこで2020年度は、シニアのモチベーションの実態について多角的に検討しながら、心理的障壁の概念を確立し、その測定尺度を作成した。 第1に、シニアのモチベーションの実態について、加齢に伴ってモチベーションが変動するかを検討した。組織で働いている1049名の調査データを解析したところ、業績を上げることや目標の達成などを目指す「達成志向モチベーション」は、加齢とともに低下するどころか、むしろ向上していた。また新たに学習することへの意欲などを表す「学習志向モチベーション」は、一般的に年齢とともに低下すると見られているが、本研究のデータからは特に年代による変化は認められなかった。 第2に「心理的障壁」の概念について検討した。シニアの心理的特徴を「社会情緒的選択性理論」から考察すると、シニアは時間を限られたものとして知覚するがゆえに、情動的な満足を追い求めるように動機づけられるという。そのため、新しく仕事を覚えることや、新しい技術を習得する学習には、失敗や時間を要するなどのストレスが伴うため、それを避ける心理が働くことが示唆されている。こうした先行研究を踏まえて、本研究では、心理的障壁を「十分な能力を保有しているにもかかわらず、困難あるいは新規な課題に取り組むことに苦手意識を持つこと」と定義した。それを踏まえ心理的障壁を測定する尺度項目を作成した。 これらの研究成果については単行本「モチベーションに火をつける働き方の心理学」(2021,日本法令)として出版した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
当初の計画に基づき先行研究のレビューを行うことはできた。しかし、企業における調査については、シニア向けの新しい人事制度を導入した企業の人事部担当者とのオンラインによるインタビューにとどまり、十分な活動が叶わなかった。そのため、「心理的障壁」の尺度開発のための基礎調査やヒヤリングが十分できずに、予定よりも研究が遅れている状況である。
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Strategy for Future Research Activity |
2020年度に実施した理論的検討とインタビュー調査の知見に基づき、「心理的障壁」尺度を開発するため、企業に勤務する20-60代までの1000名に調査を実施する。そこで尺度の因子的妥当性を確認するとともに、構成概念妥当性を検討する。なお、2021年度もコロナ禍で十分な研究活動ができなければ、調査会社によるオンライン調査なども視野に入れて研究を進めていく。 次に、心理的障壁の発生機序を解明する。心理的障壁は、単なる加齢だけで形成されるわけではなく、加齢に伴い「能力要因」と「展望要因」が関わっていると予想される。「能力要因」とは、加齢に伴い能力が低下することで心理的障壁が発生すると考えられる。「補償と伴う選択的最適化理論」(Baltes, 1997)では、加齢により能力が喪失しても別の手段や方法を獲得できればシニアも適応可能であることを示唆しているが、それが十分に獲得できないときに心理的障壁が産まれると思われる。次いで、「展望要因」とは将来に対する見通しを意味し、就業へのモチベーションよりも、退職へのモチベーション(Kanfer & Ackerman,2004)が凌駕するときに心理的障壁が産まれると考えられる。また、経験への開放性の低さや学習志向性の低さなどの個人特性も心理的障壁の形成に関わっていると予想される。 この仮説を検証するために、幅広い業種(メーカーや金融など複数の業種から3-4社を選定)に勤務するシニア世代2000名ほどを対象に調査を実施する。
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Causes of Carryover |
昨年度は、コロナ禍により企業現場の観察やヒヤリングなどの活動ができず、また国内外の学会等も中止となったため、予定していた出張旅費を執行することができなかった。 次年度も出張等が叶わない見込みであるが、コロナ禍で実施可能な研究活動として、オンラインを通じたインタビューや調査、さらには大規模としては調査会社などに委託したオンライン調査などの費用に充てていく予定である。
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Research Products
(7 results)
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[Book] 社会的認知2020
Author(s)
唐沢 かおり
Total Pages
250
Publisher
ナカニシヤ出版
ISBN
9784779515071