2021 Fiscal Year Research-status Report
合議による「分配の正義」のメカニズム:統計モデリングアプローチ
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20K03322
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Research Institution | Kwansei Gakuin University |
Principal Investigator |
清水 裕士 関西学院大学, 社会学部, 教授 (60621604)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
稲増 一憲 関西学院大学, 社会学部, 教授 (10582041)
石田 淳 関西学院大学, 社会学部, 教授 (40411772)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 分配の正義 / 社会選好 / 不確実性回避 / マキシミン / ベイズ統計モデリング |
Outline of Annual Research Achievements |
分配の正義の意思決定モデルについて改善を行い、実験データからその評価を行った。 これまでのモデルでは、リスク回避傾向についてモデルに含まれていなかったが、それを確率が未知である場合の意思決定モデルである曖昧性下のショケ期待効用モデルを参考に、モデルの修正を行った。 曖昧性下の意思決定では、経済学ではさまざまなモデルが提案されている。そこで期待効用理論における加法性の仮定をゆるめた、ショケ期待効用モデルあるいはランク依存型期待効用モデルに基づいて、分配の正義の意思決定モデルの改善を行った。実験データを用いてモデルの評価を行ったところ、提案モデルは一定の妥当性をもつことが明らかとなった。 しかし一方で、分配の正義の意思決定には、不平等回避や不確実性回避から計算されるボトムアップな処理だけではなく、分配の原理をトップダウン的に適用する処理も同時に行われている可能性が分析の結果示唆された。具体的には、平等原理やマキシミン原理といった、個人レベルの期待効用ではなく、分配そのものの原理を適用をする人と、提案モデルのように不確実性や不平等を回避する効用関数を最大化するような意思決定をする人の両方が混在していることが示唆された。 今後は、これらの意思決定スタイルが個人差なのか個人の中で共存しており、それが発動する条件に個人差があるのかについて更に検討する必要がある。 これらの結果は日本社会心理学会と実験社会科学カンファレンスで発表された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度で構築した、プロスペクト理論に基づくリスク回避傾向を考慮に入れたモデルから、不確実性下の意思決定の理論に発展させたことで、よりデータの適合がよくなった。さらに、ボトムアップ的な意思決定だけではデータは十分説明できないことも同時に明らかになり、今後のモデルの改善方法の道筋が見えた結果となった。そのため、研究は順調に進展していると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでは個人の社会選好を考慮に入れた分配の正義の意思決定モデルを検討してきたが、今年度の研究から、ボトムアップ的なモデルだけではなく、分配の正義の原理をトップダウン的に採用する個人の存在が明らかとなった。このようなハイブリッドな意思決定スタイルが、個人差によるものなのか、あるいは個人の中で両立しうるものなのかについては、さらなる検討が必要であると考えられる。また、不確実性下の意思決定モデルについて新しいモデルを提案することができたが、それについてもさらなるデータによる検証が必要な部分があるため、それらの課題を並行的に検討していく必要がある。 また、コロナの影響もあるため、最終年度の集団対面実験が可能であるかは慎重に検討する必要がある。
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Causes of Carryover |
コロナの影響で、対面実験の予備実験などを行うことができなかったため。 今年度も慎重に判断して、実験方法の模索を行う。
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Research Products
(2 results)