2023 Fiscal Year Research-status Report
擬尖点形式を用いた跡公式の分割と保型形式及びゼータ関数の研究
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20K03515
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
権 寧魯 九州大学, 基幹教育院, 教授 (30302508)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | セルバーグ型ゼータ関数 / 素測地線定理 / 誤差項の評価 / 代数体の類数分布 / 多重三角関数 |
Outline of Annual Research Achievements |
一般の局所対称空間に対して、一変数もしくは多変数のセルバーグ型ゼータ関数を定義し、その解析的性質を調べることによって数論的な応用を得ることが研究の主目的であった。特に階数2以上、非コンパクトで体積有限な場合が、数論的応用において重要であるが、現在まであまり研究されてこなかった。筆者は過去の研究において、階数2の非コンパクト局所対称空間の典型例であるヒルベルトモジュラー曲面に対する重さ(0,2)のセルバーグ型ゼータ関数を定義し、その解析的性質を詳しく調べることで、このヒルベルトモジュラー群の「原始的双曲‐楕円共役類」を数える「素測地線定理」を誤差項付きで証明した。併せて、証明の鍵となるヒルベルト‐マース形式の存在に関する固有値分布の「ワイルの法則」も証明した。以上の結果をさらに精密にすべく、 今年度は(A)ヒルベルトモジュラー群に対する素測地線定理の精密化:(A1)ギャラガー型素測地線定理、(A2)誤差項の二乗平均評価、 階数1の局所対称空間であるが、まだ未解明な点があった(B)複素双曲多様体に対するルエルゼータ関数の解析的性質、について研究を実施した。 (A)については、それぞれヒルベルトモジュラー群の場合に拡張した。証明の鍵となるのは、ヒルベルトモジュラー群に対する跡公式の二重差分公式の各局所項の“適切な”評価であった。(B)については、筆者が過去の研究で得ていた一般の階数1の局所対称空間に対する非自明Mタイプ付きセルバーグゼータ関数のガンマ因子の明示公式が鍵となり、複素双曲多様体に対するルエルゼータ関数の関数等式が多重三角関数を用いて表示できることが分かった。 以上の結果をさらにより一般の階数2以上の局所対称空間の場合に拡張し、代数体の類数分布などの数論的な応用を得ることはこれからの課題である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
一般の局所対称空間に対するセルバーグ型ゼータ関数やルエル型ゼータ関数の新たな定義や構成、解析的性質の解明を通して、 数論的な応用を得ることは研究の主目的であった。今年度新たに、 (i)ヒルベルトモジュラー群に対する素測地線定理の精密化 (ii)複素双曲多様体に対するルエルゼータ関数の解析的性質の解明 について、研究の進展がいくつかあり、研究計画はおおむね順調に進展しているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
昨年度はあまり進展がなかったが有望な方法と思われる:具体的な階数2の群上の“特異点を持った”異なるKタイプをもつ一般化Whittaker関数の明示公式を用いて、それらの線形結合から「擬尖点形式」を具体的に構成し、構成された「擬尖点形式」を試験関数として適用した“単純化した跡公式”を用いて、セルバーグ型ゼータ関数を定義し、その解析的性質を調べる。あわせて、数論的応用も研究する。 また、他の階数1の局所対称空間でも、そのルエルゼータ関数の関数等式や解析的性質がよくわかっていない場合があり、それらの場合にも筆者の過去の研究で得ていた一般の階数1の局所対称空間に対する非自明Mタイプ付きセルバーグゼータ関数のガンマ因子の明示公式も用いて研究をすすめ、数論的応用も研究する。 引き続き、関連があると思われる“PollicottとSharpによるHigher Teichmuller理論に現れるゼータ関数”との関連をより詳細に調べたい。
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Causes of Carryover |
コロナ禍により、国内外の研究打ち合わせのための出張がいくつかキャンセルになり、次年度に持ち越しとなった。次年度に改めてスケジュールを調整し、研究討論・打ち合わせを行うための旅費に使用する。
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