2020 Fiscal Year Research-status Report
Mixed Hodge theory on non-reduced log smooth degenerations
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20K03542
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Research Institution | Tokyo Denki University |
Principal Investigator |
藤澤 太郎 東京電機大学, 工学部, 教授 (60280385)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 混合ホッジ構造 / 対数幾何 |
Outline of Annual Research Achievements |
2020年度は、セミステイブルな対数的スムース退化に関する従前の研究結果を整理することから着手した。セミステイブルな対数的スムース退化は、「被約な」対数的スムース退化の典型例ではあるが、本研究の対象である「被約でない」対数的スムース退化ではない。しかし、セミステイブルな場合の研究手法に修正を加え、被約でない対数的スムース退化の「被約化」に適用可能にすることが、本課題の研究手法の一つの柱であることから、セミステイブルな場合の結果を精査し整理しておくことは、今後の見通しを得る上でも非常に重要な作業である。この作業の成果は、"Limiting mixed Hodge structures on the relative log de Rham cohomology groups of a projective semistable log smooth degeneration" として論文にまとめ現在投稿中である。 セミステイブルな対数的スムース退化の場合には、その相対対数的ドラーム複体上の積、およびそのコホモロジー群上に定義されるトレース射が重要な役割りを果しており、上述の整理作業の中で、その定義や性質について詳細な検討を加えていた。そこでこの流れを受け、本研究の対象である被約でない対数的スムース退化の被約化に対しても、同様の手法で積およびトレース射が構成可能であるか否かの研究に取り掛かった。積構造についてはある程度の見通しを得ることができたが、当初の見通しに反して、トレース射については想定していたような進捗は得られていない。これは、相対対数的ドラーム複体の単体的解消(simplicial resolution)に現れる対数構造付き複素多様体の次元が期待した条件をみたさないことが原因である。この困難をどうやって克服または回避するか、現在研究を進めているところである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2020年度当初はセミステイブルな対数的スムース退化に関する研究成果を精査することからスタートした。そこでは、積およびトレース射を正しく定義することが重要な鍵であったが、セミステイブルな対数的スムース退化が、標準的対数的点(standard log point)上ではなく、ランクの高い自由モノイドを付加された対数的点上の対象であることから、上述の積およびトレース射の定義における「符号規則」が極めて複雑である。また、どのように符号を定めれば全体を通して整合的になるかは、その全体像を見極めた上で判断するしかない。そのため、積およびトレース射の正しい定義を確定させることに思いの外時間を要したことが一つの要因である。 さらに、上記セミステイブルな場合について得られた積およびトレース射の定義を被約でない対数的スムース退化の被約化に対して適用可能とするべく修正を試みたが、トレース射については想定以上に困難であることが判明してきた。これは、相対対数的ドラーム複体の単体的解消(simplicial resolution)に現れる対数構造付き複素多様体の次元が期待した条件をみたさないことが原因である。この困難を克服あるいは回避するために、単体的手法の修正等を試みたが、現時点では明確な成果を得るに至っていない。 最後に外的な要因として、新型コロナウイルス感染症の流行による大学業務の増加を挙げねばならない。オンライン講義への対応等、従来とは異なる講義方法への対応を余儀なくされたため、その準備にこれまで以上の時間と労力を割かねばならず、十分な研究時間を確保することが困難であった。止むを得ないことではあったが、それが研究の進捗状況に影響を与えたことは否定できないと思われる。
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Strategy for Future Research Activity |
2020年度には、被約でない対数的スムース退化の被約化について、その相対対数的ドラーム複体上の積、およびそのコホモロジー群上のトレース射を定義するという方向で研究を進めてきた。しかし、単体的解消に現れる対数構造付き複素多様体の次元が然るべき条件をみたさないため、トレース射の正しい定義を与えるには至っていない。 そこで、まず当面の方向性として、「完全性(exactness)」を仮定して考察を進める。本来、完全性を仮定することなく被約でない対数的スムース退化上の混合ホッジ理論を構築することが、本研究課題の目的なのであるが、最終目標への一つのステップとして、今年度は完全である場合について考察する。完全性を仮定した場合については、イリュジー・加藤・中山の優れた先行研究があり、その内容を詳しく検討することが、本研究の進展に役立つものと考えている。完全性を仮定した場合についての研究が功を奏した後には、何如にして完全性の仮定を外すかを検討し、上記混合ホッジ理論の構築を目指す。 一方で、本研究のもう一つの鍵であるモノドロミー条件について、2020年度は、考察を行なえていない。上述の完全性を仮定した場合の考察と並行して、2021年度は、モノドロミー条件についても考察する。具体的には、適切なモノドロミー条件を仮定すれば、被約でない対数的スムース退化そのものの相対対数的ドラームコホモロジー群と、その被約化の相対対数的ドラームコホモロジー群とが同型になることを証明する。この目的のためには、従来のホッジ理論あるいは代数幾何学の知見を詳細に再検討することが大いに役立つものと考えられる。特に、ホッジ構造の変動の理論や混合ホッジ加群の理論、一方では、代数幾何学におけるセミステイブル還元(semistable reduction)の理論等について詳しい再検討を行なう。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルス感染症の流行により、学会・研究集会等がすべて中止またはオンライン開催となってしまった。そのため予定していた国内出張旅費を全く使用しないまま2020年度が終了することとなった。これが「次年度使用額」が生じた最大の原因である。 2021年度の状況について、その先行きを予想することは困難であるが、海外は難しくとも、可能な限り国内の学会、研究集会等に参加して、ホッジ理論、代数幾何学あるいは数論幾何学等の新しい知見を幅広く吸収することが本研究の遂行には必要不可欠である。そのための出張旅費として使用する予定である。 昨年来のコロナ危機下において、学会、研究集会やセミナー等のオンライン開催が常態化し、コロナ危機収束後もこの流れは不変であると予想される。加えて、書籍や論文といった文献の電子化もますます加速されるものと思われる。この様な状況下にあって、学会等に参加するためにも、あるいは自身が研究成果を発表するためにも、また、文献を収集・整理して研究に役立てるためにも、今やデジタルデバイスは必須のツールであり、今年度使用額の一部をその整備のために充当することを予定している。 さらに2020年度に引き続き、ホッジ理論、代数幾何学あるいは数論幾何学等に関連した書籍、論文の電子データによる購入等、今後本研究の遂行に必要となるであろう文献の収集・整備のために使用する。
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