2020 Fiscal Year Research-status Report
Research on the algebraic-geometric codes based on adelic vector bundles
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20K03544
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Research Institution | Japan Women's University |
Principal Investigator |
中島 徹 日本女子大学, 理学部, 教授 (20244410)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | adelic符号 / Seshadri定数 / ベクトル束 |
Outline of Annual Research Achievements |
当研究の目的は, adelic曲線とその上のadelicベクトル束を用いてadelic符号と呼ばれる新しい型の代数幾何符号を定義し, その諸性質を明らかにすることである. 当年度に於いては, 以下に述べる様な結果を得た. 第一は, adelic符号の数学的に厳密な定式化をおこなったことである. 森脇-Chenによって導入されたadelic曲線Sとその上のadelicベクトル束Eが与えられたとき, Eの算術的切断を非Archimedes絶対値の有限集合で評価して定まる写像の像としてadelic符号の概念を定義した. これにより, 従来の有限体上の代数幾何符号とArakelov幾何に基づく算術的Savin符号を同時に一般化する枠組が得られたことになる. 第二に, adelic符号のパラメーターの基本的性質を明らかにした. adelicベクトル束に対して弱安定性の条件を課すことにより, 算術的切断の空間の消滅定理が導かれる. これを用いて弱安定adelic符号の評価写像の単射性を導き, パラメーターの満たすべき評価式を得ることができた. 第三に, 偏極多様体型のadelic符号の最小距離の具体的な評価式を特殊な場合に証明できた. 非特異射影多様体Xとその上の直線束Lが与えられたとき, Lの正値性の尺度としてSeshadri定数が定義される. 当研究では, ベクトル束Eに付随したグラスマン束Gr(E)上の豊富な直線束LのSeshadri定数の値を計算することによって, Lから定まるadelic符号の最小距離の下からの評価式を得ることができた. この結果は, 以前にEがp-半安定という条件の下で当研究代表者の中島が得た結果の一般化になっている.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当年度に於いては, 本課題の主たる研究対象であるadelic符号の数学的に厳密な定義を与えることができたので, 研究の出発点が確立されたことになる. 有限体の場合のSavin符号と同様に, adelicベクトル束に関する適当な安定性の仮定の下でadelic符号のパラメーターの評価が可能であることが分かったことは今後の研究にとって大きな意義があると考えられる. また, 偏極多様体型のadelic符号の最小距離の評価式を曲線上のGrassmann束という具体的な射影多様体に対して求めることができたため, より一般の場合を考察する上で非常に大きな手掛かりが得られたことになる. 上記の理由により, 現在までのところ当研究はおおむね順調に進展していると考えられる.
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Strategy for Future Research Activity |
当年度の研究によって, adelic符号の研究に於いてadelicベクトル束の安定性概念の持つ重要性が明らかになった. しかしながら, 有限体上の射影多様体の場合以外では安定なadelicベクトル束の具体例は非常に少ないため, 次年度ではまずこの様な安定adelic束の存在問題について検討をおこないたい. 次にGrassmann束以外の場合に偏極多様体型のadelic符号の最小距離の評価式を考察するために, 安定adelic束に対してその階数やチャーン類などの不変量の満たすべき条件を決定したい. そのために, Bogomolov-Gieseker型の不等式とSun型のコホモロジー群の消滅定理をadelicベクトル束に対して証明することを計画している.
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Causes of Carryover |
(理由) 新型コロナウイルス感染防止のため, 出席を予定していた多くの学会がオンライン開催となり, 出張を取りやめることになった. そのため, 使用できなかった出張のための旅費を次年度に繰り越す必要が生じた. (使用計画) 令和3年度では, 令和2年度から繰り越した予算の一部はオンライン会議での講演・視聴のためのソフトウェアおよび設備購入費に充当することを計画している. また, 繰越分以外の予算については, 国内の大学に於ける研究打ち合わせのための旅費と研究関連の図書購入費, 通信費などに使用する予定である.
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