2020 Fiscal Year Research-status Report
Geometric study of quantum toroidal algebras
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20K03568
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Research Institution | Rikkyo University |
Principal Investigator |
斉藤 義久 立教大学, 理学部, 教授 (20294522)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 量子群 / 楕円ルート系 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度に行った研究は以下の通りである. (1) 楕円Artin群の幾何学的構成の精密化 (2) 非被約な楕円ルート系の分類 (1)について:本研究課題の主要テーマである『量子トロイダル代数の幾何学的研究』への基礎工事となる研究である.具体的には,楕円周期領域と呼ばれる複素領域から楕円Weyl群の鏡映面たち(無限枚ある)を除いた補集合を考え,その空間を楕円Weyl群の作用で割る.得られた空間は自然に上半平面上のファイバーバンドルに構造を持ち,そのファイバーの基本群として楕円Artin群(楕円ルート系に付随するブレイド群)が幾何学的に構成される.この事実は,本研究課題に着手する以前から概ね知られていたものであるが,本年度は構成された上半平面上のファイバーバンドルへのモジュラー群の作用に関して,より詳細な研究を行った.この研究に関しては,2020年度日本数学会秋季総合分科会の無限可積分系セッションの特別公演(オンライン講演)で研究発表を行った. (2)について:こちらは研究計画書提出時にはあまり想定していなかったテーマである.楕円Hecke代数は楕円ルート系に付随するWeyl群(楕円Weyl群)のq-変形として導入され,直交多項式系をはじめとする可積分系の研究に大きく貢献できることが知られている.楕円Hecke代数は楕円ルート系を与えるごとに定まる.知られている楕円ルート系は被約なものに限られていて非被約な楕円ルート系は全く知られていなかったが,報告者は本年度の研究でこれらの構成・分類に成功した.既存の理論の経験から言えば,非被約なルート系を扱った方がより普遍的な可積分系を扱うことが出来る.現時点では非約な楕円ルート系に対応する楕円Hecke代数の理論は完成していないが,これが構成された暁には,可積分系の研究に新たな知見を与えることが期待される.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本年度の研究が思うように進まなかった最大の要因は,世界的なコロナウィルス感染症の流行のために生じた急激な環境の変化により,講義をはじめとする大学内の通常業務体制が変化を強いられ,本来研究に充てるべきリソースを十分に割くことが不可能になってしまったことが非常に大きい.同時に,人の行き来が途絶えてしまったため,本来行う予定だった関連研究者との研究打ち合わせ・関連研究者の招聘が一切出来なくなってしまった.これほどの災害は研究計画申請時には予想出来るはずもなく,ある程度の影響はやむを得ないものと考えている. そうした環境の中にあって,多少なりとも研究が進展したことにはそれなりに満足もしている面はある.特に『研究実績の概要』の(2)で述べた『非被約な楕円ルート系の分類』については,将来的な発展の礎になる可能性があり,今後の進展に期待しているところである.また,(1)についても,楕円周期領域と呼ばれる複素領域から楕円Weyl群の鏡映面たちを除いた補集合が非自明な高次のホモトピー群を持つ可能性が見えてきた.これは,古典的なルート系の理論には無かった全く新しい現象で,今後の進展が期待される.今年度が研究計画の初年度であることを考えれば,今後の研究の端緒になり得る数々の新しい発見があったことは,決して悪いことではなく,プラスの評価を与えて良い点であると考えている. しかしながら,当初の計画通りに研究が進まなかった面があることは否定できない.これには最初に述べた世界的なコロナウィルス感染症の流行が大きく作用しているのは間違いないものの,トータルとしてはやはりマイナスの自己評価を与えざるを得ないと考えている.
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Strategy for Future Research Activity |
現在,国内における新型コロナウィルス感染症の流行は,衰えを見せる様子を見せていない.以下,秋頃までにはある程度状況が好転しているとの想定のもとに『今後の研究の推進方策』を記すが,仮に長期化してしまった場合には2020年度と同様の対応を取らざるを得ず,研究課題の遂行を妨げる要因になり得ると考えている. (1) 楕円Artin群の幾何学的構成の精密化:『研究実績の概要』の項で述べた楕円周期領域へのモジュラー群の作用に関しては,まだ未解明な部分が多く残されている状態にある.今後は,楕円関数に関連する可積分系への応用を見据えて,未整備な部分を埋める作業を行なっていく. (2) 非被約な楕円ルート系に関する研究:非被約な楕円ルート系については,2020年度の研究でその分類は完成したものの,問題が山積している状況にある.今後の課題としては,(i) 自己同型群,特にモジュラー群の決定,(ii) Coxeter元の存在の有無,(iii) 付随する楕円Hecke代数の構成,(iv) 対応する楕円正則軌道空間の構成,等が挙げられる.もっとも手がつけ易い(i)から着手し,(ii)~(iv)を目指したい.特に(iii)は可積分系への応用が見込まれるため,本研究課題の目的にも合致する. (3) 量子トロイダル代数(QTA)のPBW型基底の構成:これは本来初年度に行う予定だったテーマである.種々の要因から2020年度中に取り組むことが出来なかったが,時間が許せば是非取り組みたいテーマである.報告者のこれまでの研究で必要なデータは蓄積されており,成果を上げることが十分に期待できると考えている.
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた最大の理由は,新型コロナウィルス感染症の世界的な流行により,国内外で人の移動が全く出来なくなってしまったことに依る.そのため,予定していた研究旅費の一切を使用することが出来ず,同時に,研究者の招聘も不可能になってしまった.また,当初予定していた学生アルバイトを使っての資料整理等の作業も,密を避ける目的で一切行わなかったため,そのために計上していた予算を使用することが出来なかった.これらは研究計画作成時には全く予想が出来なかったことであり,止むを得ない事情に該当すると考えている. 研究予算の未使用分を次年度にどの程度執行出来るかは新型コロナウィルス感染症の世界的流行がどの程度終息するかに掛かっている.現時点では先行きが不透明であるため使用計画を立てるのが難しいが,仮に人の移動が可能になった場合には,当初研究計画に基づく予算の執行に加え,新たに,海外からの関連研究者の招聘を予定している.実現すれば,本研究計画の遂行上大きなプラスになるとともに,十分に本年度の未使用分をカバー出来ると考えている.
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