2022 Fiscal Year Research-status Report
Spectral analysis of quantum fields using Bogoliubov transformation
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20K03628
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Research Institution | Shinshu University |
Principal Investigator |
佐々木 格 信州大学, 学術研究院理学系, 准教授 (50558161)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 場の量子論 / スペクトル解析 |
Outline of Annual Research Achievements |
対相互作用模型は場の2次の相互作用を持つ量子場の基本的な模型の一つであり,歴史的には解ける模型の例として原子核内部における核子と核子の相互作用の解析のために考察されたものである。対相互作用模型を抽象化した模型は,電子と光子との相互作用を記述するPauli-Fierz模型で双極近似を行った模型を例として含むため,さまざまな応用を持つ模型となっている。本研究はBogoliubov変換による対相互作用模型の対角化についての研究である。具体的には,対相互作用模型の基底状態の解析性や散乱理論,より強い特異性を持つ対相互作用模型の対角化の研究を行うこととなった。
昨年度までに行っていた研究によって,適切な条件下において対相互作用模型の基底状態エネルギー,基底状態,種々の基底状態における期待値が結合定数について解析性を持つことを示していたが,実は少し不満の残る点があった。この模型は結合定数について有限の収束半径を持つのだが,基底状態エネルギーの解析性は予想される収束半径を得たのに対し,基底状態の解析性についてはそれより3割ほど小さくなるような評価しか得られていなかった。2022年度はまず,この部分を改良するための研究を行った。Bogoliubov変換の対角化に必要な作用素の逆作用素の解析性の証明の部分で収束半径を失っていることが判明したのだが,その部分は級数展開ではなくをSectorial作用素の理論を使うことで改良できることに気づいた。ただし,現在行った改良では,解析性のための位相が弱位相であるため,これをノルム位相やHilbert-Schmidt作用素の位相まで拡張する必要がある。これについてはさらなる研究が必要だろう。
他には,双極近似のPauli-Fierz模型の解析性,強い特異性を持つ対相互作用模型のHilbert-Schmidt条件の証明について研究を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
研究実績の概要で述べたように,主に対相互作用模型の結合定数に関する解析性の研究を行った。これの研究は大部分が一昨年までに完成したいたのだが,得られた結合定数の収束半径が最良であるかを考察した結果,基底状態エネルギーや個数作用素の真空期待値などについては満足の行く結果を得ていたのに対し,基底状態についてはやや不満の残る結果となっていた。昨年度はこれについての改良を行い,Sectorial作用素の理論を使うことで改良できる見通しとなった。しかし,現在得られた結果は完全に最良の収束半径を証明したものではないため,もう少し研究を続ける必要がある。 また,昨年度の報告書で予定していた,対相互作用模型の漸近完全性の論文の執筆も後回しにされた。これについては,主結果は得られているのだが,量子場の散乱の定式化について,少し不明確な点があることに気づいたので,研究協力者と議論を続けることとなった。 以上の理由により,研究は予定よりやや遅れているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
対相互作用模型の解析性については,研究業績の概要や進捗状況で述べたとおり,Sctorial作用素の理論を使うことで改良できる見通しとなった。しかし,まだ現在得られた結果は作用素の弱収束であり,基底状態の解析性のためにはこれをHilbert-Schmidt作用素の位相での収束まで拡張する必要がある。また,さらに,それに対応する2粒子状態の生成作用素の指数関数の解析性まで示す必要がある。 より強い位相での収束を示すためには,とりあえずは一様有界性の原理を応用することが考えられる,これが適用できれば簡単だろうが,そうでない場合は今思いつく方策はない。また,2粒子の生成作用素の指数関数の解析性の証明も少し大変に感じられる。これについては作用素をテイラー展開して各次数の項の交換子を計算してそれが収束に影響を与えないことを示さないといけない。これについては,特に方策はなく,試行錯誤するしかないように思われる。これらがうまく示せなかった場合は,結合定数に対する部分的な制限のついた結果となってしまうが,Pauli-Fierz模型などで物理的な結合定数をカバーしていれば十分なので,それを吟味する予定である。
対相互作用模型の散乱は量子場の散乱なので,生成・消滅作用素のハイゼンベルグ作用素の長時間挙動で定義される漸近場というものが主な対象となる。漸近場を用いて散乱理論が展開されるのが普通である。一方で,全系の状態を記述するフォック空間に自由粒子の状態空間をテンソルした空間を考え,自由粒子の空間上の通常の生成・消滅作用素を漸近場と同一視する見方もあるようである。この2つの定式化が同一の散乱理論を記述しているのかどうかはっきりさせてから論文執筆に取り組む予定である。これについては先行研究を探したり,散乱理論の専門家と相談して研究を推進する予定である。
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Causes of Carryover |
コロナ渦により予定していた海外の研究集会への参加を見送ったため予算を繰り越すこととなった。
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