2020 Fiscal Year Research-status Report
転送作用素の漸近理論構築による無限グラフを備えた非共形反復関数系の高次漸近解析
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20K03636
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Research Institution | Wakayama Medical University |
Principal Investigator |
田中 晴喜 和歌山県立医科大学, 医学部, 講師 (60648567)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 転送作用素 / 漸近摂動 |
Outline of Annual Research Achievements |
令和2年度は,10年前に得られていた有限状態をもつサブシフト上で定義されたポテンシャルの位相的圧力,Gibbs測度,測度論的エントロピーの高次漸近展開に関する結果([T2011]とかく)を可算状態をもつ場合に拡張すること,及び成立条件の緩和が目標であった.このため,熱力学的特性量を導出する転送作用素のスペクトルと作用素の漸近展開との関係に関する一般論を発展させる研究を行った. 理論構築にはGoue"zel,Liveraniらの論文を参考して,有限状態をもつサブシフト空間からBanach空間(の列)に一般化しその上で定義される有界線形作用素たちを係数にもつ摂動された転送作用素を考える.同作用素を考える際,一様Lasota-Yorke型不等式の条件を課すことが多いが,同条件は固有値・固有ベクトルの連続性・漸近挙動を得るためだけであればやや強い条件になりうる.実際,[T2011]ではレゾルベントの摂動を伴わない方法を与えることで,Perron固有値と対応する双対作用素の固有ベクトルについては,同条件が満たされない場合でも高次漸近展開が得られることが分かっていた.だが,転送作用素の固有関数の漸近展開については与えらていなかった.今回,固有関数の展開において剰余部分を帰納法によらない明示式を与えることにより,一様Lasota-Yorke型不等式を満たさないある弱い条件下で固有関数の漸近挙動を与えることができた.得られた結果は可算状態をもつ記号力学系にも適用可能であり,その内容を広島確率論・力学系セミナー及び,冬の力学系研究集会にて発表した.今回得られた結果は,シフト空間のみならず一般のBanach空間でも適用可能であり,別の摂動問題へ適用できる可能性を秘めているという意味でよい成果が得られた.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
令和2年度の目標である,以前得られていた有限状態をもつサブシフト上で定義されたポテンシャルの熱力学的特性量の高次漸近展開に関する結果を可算状態をもつ場合に拡張すること,及び成立条件の緩和がおおむね達成されたため.
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Strategy for Future Research Activity |
まず,昨年度に引き続き,転送作用素の漸近理論を構築する研究をさらに進める.具体的には,非摂動系の転送作用素が半単純(semisimple)な固有値の場合に拡張することによりホール(hole)をもつ摂動系に適用可能にする研究を行う.次に,応用への適用を想定した一般漸近理論がある程度得られた段階で,無限グラフを備えた反復関数系を摂動した際の極限集合の次元,それに結び付くGibbs測度と測度論的エントロピーの高次漸近挙動を考える.その際,正確に剰余部分を評価する研究も行う.一般的な設定の下で剰余部分の評価を正確に求めることが難しい場合は,閉区間上の具体的な可算IFSの例を使った場合で考え,その結果を一般化する方向で考える.次に,退化を伴う摂動無限グラフ反復関数系を考えることによる次元に結び付く平衡測度の準安定性について研究する.反復関数系を構成する縮小写像の幾つかが退化する場合,再び反復関数系になり退化で生じた新たな記号力学系の推移的コンポーネントはただ一つであるが,(強連結な)グラフを備えた反復関数系が退化する場合,複数の推移的コンポーネントが出現する可能性があり非平衡状態が生じうる.摂動系の平衡測度の複数の平衡測度への分裂現象を調べる研究をPerron補元の手法を用いて行う.加えて,各複数の平衡測度にかかる重み係数を具体的に求める方法として,次元・Gibbs測度・測度論的エントロピーの高次漸近挙動の結果の適用を目指す.得られた結果は論文としてまとめ投稿する.また学会等で結果を発表する.
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Causes of Carryover |
昨年度はコロナの影響により国内外の研究集会の出張が中止となり旅費の出費がなくなったため,次年度使用額が多少生じた.今年度は,対面による研究集会が再開され次第国内外の出張,及び昨年度から引き続いて関係図書・雑誌の購入と論文作成・情報収集のためのコンピュータ周辺機器の整備を行う予定である.また,遠隔による研究集会が続く場合,リモート発表のための周辺機器整備も行う予定である.
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Research Products
(2 results)