2021 Fiscal Year Research-status Report
有限予測における表現定理とテプリッツ系に対する線形時間アルゴリズム
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20K03654
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
井上 昭彦 広島大学, 先進理工系科学研究科(理), 教授 (50168431)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | テプリッツ行列 / テプリッツ系 / 明示公式 / 多変量長期記憶モデル |
Outline of Annual Research Achievements |
(1) 研究代表者は、2020年度までに、スペクトル密度行列の逆が可積分であるという性質(minimalityとよばれる)を持つ多変量定常過程を考察し、そのブロック・テプリッツ行列の逆行列に対する新しい明示公式を導いた。その明示公式は、スペクトル密度行列に付随するユニタリ行列値関数のフーリエ係数から構成される。さらに、その明示公式の有用性を示す次の二つの応用例を示した:(i) 短期記憶多変量過程のテプリッツ系の解の強い収束性 (Baxter型収束) 、(ii) 多変量ARMA (AutoRegressive Moving-Average) 過程のブロック・ テプリッツ行列の逆行列に対する閉形式公式とそれによりテプリッツ系を線形時間 O(n) で解くアルゴリズム。 (2)上記の二つの応用は、いずれも、短期記憶過程に対するものであった。一方、上に述べたテプリッツ行列の逆行列に対する明示公式は、minimalityという非常に弱い条件で成り立ち、特に、多変量ARFIMA過程などの長期記憶過程に対しても成り立つ。そこで、J.Yang 氏 (台湾 Academia Sinica) と研究代表者は、2021年度に、上記ブロック・テプリッツ行列の逆行列に対する明示公式を、多変量長期記憶過程に応用することを考え、次の(3)で述べる研究成果を得た。 (3) 研究代表者とJ.Yang氏は、多変量ARFIMA過程に対応するブロック・テプリッツ系を考察し、上記の研究代表者によるブロック・テプリッ ツ行列の逆行列に対する明示公式を用いて、対応するテプリッツ系の解に対する強い収束性の結果 (Baxter型収束性) を示した。この結果は、上の (1)(i) の結果の長期記憶過程に対するある種の類似物となっている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究課題の研究目的としてあげていたテプリッツ行列の逆に対する明示公式と、その結果の意義を説明する応用例は、2020年度までの研究で研究代表者により順調に得られた。しかし、この明示公式自体は長期記憶過程に対しても成り立つ一方、その応用例は短期記憶過程に対するものに限られていた。より興味深い長期記憶過程に対する明示公式の応用例も提示することができれば、それは、この明示公式の有用性をさらにはっきりと示すことになると考えられていた。このような状況下で、2021年度にJ.Yang氏と研究代表者により共同で行われた研究の成果は、まさにそのような長期記憶過程に対する明示公式の応用例となっている。すなわち、テプリッツ行列の逆に対する明示公式を有効に用いて、多変量ARFIMA過程のテプリッツ系に対するBaxter型収束性の結果を示した。この結果は、研究代表者のテプリッツ行列の逆に対する明示公式により初めて得られるようになった結果である。以上の理由により、現在までの進捗状況は、当初の計画以上に進展していると判断する。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究課題の研究目的としてあげていた最初の項目については、長期記憶過程のテプリッツ系に対するBaxter型収束性等、想定していた以上の成果をあげることができ、それに関する論文を投稿および準備中である。今後は、次の三つを中心に研究を進めていく:(i) 準備中の論文を完成させ投稿する、(ii) 別の研究目的としてあげている「動的確率従属性解析の手法の開発とファイナンスヘの応用」の研究を進めていく、(iii) 研究代表者によるテプリッツ行列の逆に対する明示公式の更なる応用例を探る。
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Causes of Carryover |
2021年度には、新型コロナウイルス感染症の流行により、研究打ち合わせおよび研究成果発表のために使用する予定であった国内旅費と海外旅費は使えなくなってしまった。一方、研究や研究成果発表を行うために必要となる物品や新しいPCの購入等を本科学研究費を用いて行うことができ、研究にとっては非常に有効であった。結果として、全体では、次年度使用が生じた。 2022年度も新型コロナウイルス感染症の流行は続いているので、研究打ち合わせおよび研究成果発表のための国内旅費や海外旅費を予定通り使用できるかについては不確実である。しかし、それらの使用ができない場合にも、研究を効率的に進めていくための電子機器や関連する書籍を本科学研究費を用いて購入し、本研究に有効に利用していく計画である。
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