2022 Fiscal Year Research-status Report
Integrability of dynamical systems that exhibit Laurent phenomena and positivity via algebraic entropy
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20K03692
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
野邊 厚 早稲田大学, 政治経済学術院, 教授 (80397728)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 離散可積分系 / クラスター代数 / 保存量 / 厳密解 |
Outline of Annual Research Achievements |
クラスター代数をはじめとする正値ローラン性をもつ離散力学系に関する研究によって得られた成果を用いて、今年度は感染症数理モデルの一つであるSIR with vaccination modelの可積分離散化について主に研究した。連続モデルの保存量から得られる不変曲線と他の曲線との交叉を用いて離散モデルを導出し、その可積分性を示した。すなわち、この離散モデルは(1)連続モデルと同じ保存量をもち、(2)順方向/逆方向の時間発展がいずれも一意に定まることを示した。(1)は離散力学系の構成法から自然に導かれ、(2)の証明においては、複素多価函数であるLambert W函数が不変曲線のパラメータ表示を与えることが鍵となる。これら(1)、(2)の性質をもつことから、得られた離散モデルは連続モデルの可積分性を保つ離散化、すなわち、可積分離散化であることが結論づけられる。さらに、離散モデルの解は連続モデルと共有する不変曲線のパラメータ表示を与えることを用いて、連続モデルの厳密解を構成した。また、第1種Abel方程式を経由して連続モデルを完全微分方程式として表現し、そのポテンシャルを求めた。さらに、SIR with vaccination modelのパラメータを制限することで得られるSIR modelに対して、不変曲線と交叉する直線の平行移動を用いて、その時間発展を幾何学的に線形化する方法を与えた。SIR modelは、適当な変数変換により、Bernoulli方程式へ帰着でき、さらに線形化できるため、このような幾何学的線形化が自然に得られることは大変興味深い。これらの研究に関連する論文をarXiv上で公開し査読付き論文誌へ投稿した。また、関連する研究発表を4件行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初の研究計画では、正値ローラン性をもつ代表的離散力学系であるクラスター代数の変異について研究を進める予定であったが、2020年に発生した新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響によりほとんどの研究集会・学会等が中止に追い込まれ、研究発表や他の研究者との議論が不可能になってしまった。今年度(2022年度)までに状況は改善してきてはいるものの、研究計画の遅れを回復するまでには至っていない。また、2021年4月に千葉大学教育学部から早稲田大学政治経済学術院へ異動したため、新規授業の準備等に多くの労力を割かねばならず、本研究計画のための研究時間が想定よりも少なくなってしまった。このような理由から研究期間を1年延長し、来年度は当初計画通りの成果を挙げることを目指す。
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Strategy for Future Research Activity |
【現在までの進捗状況】で述べたように、3年間の研究期間を1年延長し研究計画の完遂を目指す。COVID-19の影響から感染症数理モデルの研究が世界的規模で活発になったことを受け、本研究計画においても当初の計画を若干変更し、2022年度は代表的感染症数理モデルであるSIRモデルとその拡張モデルについての研究を行った。これまでのクラスター代数などの研究成果を積極的に援用し、SIR with vaccination modelの可積分離散化を得ることができた。今後はSIR with vaccination modelをシンプレクティック幾何学的観点から考察し、Lotka-Volterra系のLax形式との関係を明らかにすることを目指す。また、最近の研究により、A^{(1)}_N型クラスター変異と同様の手法でD^{(1)}_N型クラスター変異の保存量を構成できることが分かってきたため、今後はこのような力学系についてもさらに詳しく調べていく予定である。
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Causes of Carryover |
コロナウイルス感染症のパンデミックによりほとんどの研究集会・学会等が中止もしくはオンライン開催となったため、当初予定していた出張旅費の使用計画を変更せざるを得なくなった。また、研究計画を若干変更した影響で、資料調査等に時間を使い、研究発表のための費用が当初の予定より少なくなったため。研究期間を1年延長し研究の完遂を目指す。
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