2022 Fiscal Year Research-status Report
Analysis of propagation phenomena and singularity of the logarithmic diffusion equation
Project/Area Number |
20K03708
|
Research Institution | Tokyo Metropolitan University |
Principal Investigator |
下條 昌彦 東京都立大学, 理学研究科, 准教授 (40588779)
|
Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
|
Keywords | 対数拡散方程式 / 伝播現象 / Liouville型定理 / 単安定・双安定 / 全域解 / 交点数理論 / パルス波 / 特異・被食捕食系 |
Outline of Annual Research Achievements |
放物型方程式の「全域解」とは任意の時刻で定義されている解である.放物型方程式は,情報散逸が伴うため,一般には負の時間方向には解けない.そのため,全域解は過去の情報を完全に含有する貴重な解である.全域解の分類作業は,非線形放物型方程式の漸近挙動を調べる強力な指針を与える.
東京工業大学の柳田英二氏,大阪公立大学の物部治徳氏と,単安定の反応項をもつ対数拡散方程式の無限遠で指数的なオーダーで減衰する任意の解の挙動を完全に分類し,それらの解の漸近挙動について精密に解析した.我々はスツルムの交点数理論を用いて「全域解」の分類に関するLiouville型定理を確立し,極限集合の構造から解のダイナミクスを特徴付けるいう無限次元力学系の観点から解析を行った.論文は学術誌に掲載された(Indiana Univ. Math. Journal 71, 2022).
昨年度,研究代表者はJong-Shenq-Guo教授(Tamkang大学)と,エネルギー構造があるが比較原理が使えないような連立系の反応拡散方程式に対して,定数定常解に関わる,全域解の一般的なLiouville型定理を確立した.応用としてたとえばDucrot-Giletti-Matano(2019)らの研究で未解決になっていた,拡散係数が一般の場合の,反応拡散方程式の伝播現象の漸近挙動の問題に決着をつけた.本年度,我々はより一般の異常拡散をもつ連立放物型方程式に対してもLiouville型定理を拡張することで,分数階拡散方程式の伝播現象の漸近挙動を解明した.論文は学術誌に掲載された(Applied Math. Letters vol 133, 2022).分数階拡散方程式では,拡散を記述する積分核が代数的なオーダーで空間減衰する.我々は指数的な減衰をする積分核に対する非局所拡散方程式に対しても,Liouville型定理を拡張している.
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
対数拡散方程式の研究は予定通りに,進行している.全域解の分類定理の派生的な研究成果として,数理生物や感染症に現れる伝播現象についてのいくつかの未解決問題も統一的な視点から解決されたから.
|
Strategy for Future Research Activity |
全空間の連立の反応拡散方程式系の全域解のLiouville型定理の証明では,エネルギー汎関数を重み付きで考えるという単純なアイデアが功を奏した.エネルギー汎関数ということに関しては,数理生物学に現れる多くの常微分方程式はエントロピー型のリャプノフ関数を持っている.これまでの全域解のLiouville型定理は,定数平衡解に関するものであり,反応拡散方程式系の「伝播現象の漸近解析」で有用であった.侵入現象を解析するには進行波解に付随するLiouville型定理の考察は有用である.
本研究プロジェクトの途上で,研究代表者は曲率流の自由境界値問題や対数拡散方程式の進行波の研究で,幾何的なアプローチに基づく解釈から,ある種のエントロピー汎関数が有用であることを発見している.今後は,進行波の収束に対する対数拡散方程式のエントロピー型汎関数のフレームワークを,連立反応拡散方程式の「進行波の安定性解析」の解析手法として移植し,被食・捕食型反応拡散方程式系の進行波の安定性問題を解明する.現在も,その計算は着々と進んでおり,近日中には成果が得られる見込みである.
一方で,定常解や進行波解などを組み合わせた,より高度な時空パターンを記述するタイプの全域解の構成問題にも取り組む.
|
Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた理由としては,リモートでの海外研究集会の発表などが増えて,研究発表で予定していた海外出張が不要になったことが大きい.今後もこの傾向はしばらく続くようである.しかしながら,海外での対面研究集会が現在急激に増えつつあり.その旅費が本年度は必要になる.一方で,研究室のパソコンなどの研究器具が老朽化・破損しており,数値計算の実行やリモート研究集会の参加に支障をきたしている.予算の一部は研究で必要となる備品の整備に充てる.
|