2020 Fiscal Year Research-status Report
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20K03739
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Research Institution | Meiji University |
Principal Investigator |
小川 知之 明治大学, 総合数理学部, 専任教授 (80211811)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 振動場反応拡散系 / パターン制御 / 分岐構造解析 |
Outline of Annual Research Achievements |
反応拡散方程式系の解析的研究は散逸を伴う生物系、生態系、化学反応系に現われる様々な非線形現象において生じるパターン形成の理解に多大な貢献をしてきたが、定常でなく振動的なパターンの場合は、大域的な振る舞いは極めて複雑で普遍的な理解に至っていない。一方、例えばある種の細胞などでは、あたかも膜上に現れる特定のタンパク質濃度の振動パターンを自在に制御しながら活動しているようにも見える。また振動化学反応でも、一見不規則に生起する振動パターンに光によるフィードバック制御を行うと、統率された定在波振動が観測されたりすることも知られている。つまり拡散振動場の挙動の複雑さは豊富なアウトプットを可能にするポテンシャルの高さであり、生物などはそれを利用して低コストで制御していると考えられる。振動場反応拡散系を自律的にフィードバック制御することによりどの程度その挙動を律することができるか、所望するような振動パターンが得られるかという問題は、生理現象の研究だけでなく、マクロスコピックな生態学の研究、化学反応を用いる材料科学など様々な分野とも関連し、拡散現象の研究の裾野を拡げることに繋がると期待される。このような背景の元、本研究課題に先立つ研究課題では、2つの拡散結合振動子系に大域的なフィードバック制御を加えることで同相振動や交互振動を安定に出現させられること、さらに拡散係数を変えることで交互振動の分岐ブランチ(枝)の組み替えが生じることを明らかにした。かくして分岐構造のトポロジーの変化を利用し低コストで大変形の制御が可能にする、すなわち、分岐構造的特性を利用して系の挙動をコントロールする「アクティブなパターン制御」という新たな視点を導入した。初年度は、3つの振動子系の分岐構造を数値的に追跡しブランチの組み替えが存在することと制御可能性を検討した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
研究計画では次の3つの課題を検討する予定であった。(1)BZ反応の大域フィードバック制御系(2)1次元の膜・バルク問題の大域分岐構造(3)2次元の膜・バルク問題。このうち、(1)に関しては、FHN系の結合振動子系モデルに単純化して分岐追跡を行った。同相振動,3相振動,2:1交互振動などの特徴的な解が現れることがわかり,これらの2パラメーター分岐追跡を分岐計算パッケージの AUTO を用いて行った。2振動子系の時と同様に同相同期と交互同期の2つの分岐枝がお互いに繋ぎ変えを起こすリコネクションが拡散とフィードバックの競合により現れる事が分かった。このリコネクションによって,同相振動と交互振動の双安定な領域がパラメータに依存して変化する事が確認された。これらの実験系での再現のため、研究協力者の大野航太氏と実験装置の設計を行い実験装置の準備を進めた。しかしながら、3振動子系で特徴的に現れる3相振動のリコネクションの有無は未解明である。
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Strategy for Future Research Activity |
次のような課題を検討していく。まず(1)BZ反応の大域フィードバック制御系に関しては、振動子の対称性をコントロールするパラメーターを含め3パラメーターの分岐追跡を行うことで、新たなリコネクションが探せると期待している。また、研究協力者の大野航太氏と、感染拡大防止のための活動制限レベルを勘案しながらBZ反応の3振動子大域結合系の実験解析も進める。(2)(3)はそれぞれ海外の研究者との打ち合わせを要するので、今年度に大きく進展することは期待できないが、非局所項を持つ反応拡散系への縮約とその線形固有値解析を進める。
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Causes of Carryover |
3つの検討課題のうち(1)に関しては、2020年度に発表予定であったAIMS国際会議が延期された。(2)、(3)はそれぞれ沖縄科学技術大学院大学、ペンシルバニア大学の研究グループとの集中した打ち合わせを必要とするが、感染拡大に伴う活動制限により実施することが難しかった。このようなわけで、今年度は予算は使用せず、オンラインミーティングで可能な部分のみで研究計画を進めた。
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