2020 Fiscal Year Research-status Report
ハニカム格子多スピンリング交換模型における新奇な状態の発現機構
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20K03770
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Research Institution | University of the Ryukyus |
Principal Investigator |
安田 千寿 琉球大学, 理学部, 教授 (20398564)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 固体ヘリウム / 多スピンリング交換模型 / ハニカム格子 / フラストレーション / 古典的基底状態 / カイラリティ |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、ハニカム格子多スピンリング交換模型の古典的基底状態の探索と古典系の熱力学的特性を調べるためのプログラム開発を行った。古典的基底状態を明らかにしておくことは、スピン波理論等を用いて量子力学的効果を調べる上でも重要である。また、二体相互作用だけからなるフラストレーションのある古典系では、有限温度特有の状態が出現していることが報告されており、多スピンリング交換模型においても同様なことが期待される。
最近接の二体相互作用と六体のリング交換相互作用、磁場による相互作用からならハニカム格子多スピンリング交換模型の古典的基底状態を数値的・解析的に調べた結果、次のことが分かった。六体相互作用に比べて二体相互作用が大きいパラメータ領域では、上向きスピンと下向きスピンが交互に並ぶ反強磁性状態が基底状態となる一方、二体相互作用が小さい領域では、八種類のスピンが周期的に並ぶ八副格子構造の状態が基底状態となった。この状態では、最近接スピン相関の値が全て同じであり、また、副格子スカラーカイラリティが有限となる立体的な構造が実現している。六体リング交換相互作用のエネルギーを下げて安定な状態を実現するためには、このような構造でスピンの向きのバランスを取ることが必要であることを示している。さらに磁場を印加すると、ゼロ磁場で反強磁性状態であったパラメータでは、二種類のスピンが磁場に対して垂直になり、磁場の増加とともに磁場の方向を向いていく部分偏極した反強磁性状態が無限小の磁場で実現した。一方、ゼロ磁場で八副格子構造であったパラメータでは、八副格子構造がある有限の磁場まで維持され、その後、磁場の増加とともに、大きな副格子構造、四副格子構造、そして、部分偏極した構造が順番に現れることが分かった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究実施計画では、ハニカム格子多スピンリング交換模型の古典的基底状態と古典系の熱力学的特性を調べることを計画した。古典的基底状態の相図が完成し、生じる基底状態の性質もほぼ明らかにしている。古典系のモンテカルロ計算のためのプログラミングは完了し、採用したモンテカルロ法の有効性をテスト模型や多スピンリング交換模型において確認している。
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Strategy for Future Research Activity |
様々な古典的基底状態が生じるメカニズムをスピンの向きの変化を詳細に調べることで明らかにする。古典系のモンテカルロ計算を大きなサイズの系や低温で実行するためには、大規模な計算が必要となるので、並列計算を実行できるようプログラムを拡張する。その後、超並列計算機を用いた計算を実行する。以上の研究と並行して、量子系での新奇な状態の実現可能性とその性質を調べるための手法を開発する。その方策として、最初に、三角格子多スピンリング交換模型の先行研究で用いられた手法をハニカム格子系に適用する。
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Causes of Carryover |
(理由) 学会が遠隔開催となったため、旅費の使用が生じなかった。 (使用計画) 次年度の予算と合わせて、もう一台計算機を購入するなど、研究の進捗を向上させるために使用したい。
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