2020 Fiscal Year Research-status Report
少数多体系の遷移過程における非アレニウス性の力学的起源
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20K03776
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
清水 寧 立命館大学, 理工学部, 教授 (30388128)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
新山 友暁 金沢大学, 機械工学系, 准教授 (00583858)
奥島 輝昭 中部大学, 工学部, 准教授 (10434721)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 鞍点 / 遷移状態 / 動的安定化 / 準周期軌道 / 非線形ダイナミクス / 分岐 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究計画は、少数多体系の遷移過程の力学的起源が「有限自由度性」と「非エルゴード性」にあるというシナリオの下で進められている。特に後者の起源については、古くから知られるカピッツァ振子における倒立状態の安定化が、ハミルトン系でのポテンシャルエネルギー曲面の鞍点でも普遍的に起こりうるという我々の予想に基づいている。その予想を実証的に示すべく、カピッツァ振子の倒立状態近傍のダイナミクスと2自由度ハミルトン系である対称2重井戸モデルの鞍点近傍のそれを数値的に比較した。これらのモデルの不安定平衡点の運動は一見全く異なるが、ともにマシュー方程式で記述され、その詳細は半解析的に理解されているため、比較対照の上で正に好適である。双方の位相空間構造を数値的に精査した結果、カピッツァ振り子同様、対称2重井戸モデルにおける鞍点近傍においても、広いエネルギー範囲で鞍点近傍での局在安定運動(準周期的運動)が発生することがわかった。またこの準周期運動はいずれも鞍点直上の不安定周期軌道の階層的分岐のにより発生するという点で、共通のメカニズムを持つことを確認した。このような遷移状態である鞍点近傍に現れるトーラスは、領域としては非常に狭いが、遷移ダイナミクスにおいては大きな効果を及ぼしうる。そのことを演示する例として、モースポテンシャルで相互作用する3体系の異性化ダイナミクスについても同時進行で調べた。エネルギー一定条件下における少数クラスター系が、特に負の比熱を示すことは以前より数値的に指摘されてきた。これまでに我々は3体クラスター系でも、同様の負の比熱現象が数値的に現れることを見出していた。今回この系の位相空間構造を、3体系の配置に制限を加えた系(T-Shaped系)を介して数値的に精査した結果、「鞍点周りの局在安定運動(準周期運動)の存在が負の比熱が発生する直接的原因であること」を示す知見をえた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度で注力した2つのテーマ「2重井戸ポテンシャル系の鞍点構造近傍のダイナミクスの解析」「少数多体クラスター系の負の比熱の発生」は元々は別の動機で始めた研究であったが、3体系でも負の比熱が発生すること、その場合鞍点近傍の運動がマシュー方程式で近似されること、系のポテンシャルを変化させると負の比熱を制御できること等々小さな発見が続ことで展開があったため進展があった。その反面、コロナ禍で共同研究者との長時間に及ぶ対面の議論が不可能となったことが大きな足かせとなり進行が妨げられた部分も大きい。これらの結果、全体の進捗として、思わぬ面での進展・展開があったが全体としての進捗は一進一退であった。
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Strategy for Future Research Activity |
昨年度での研究推進の上で最も大きな足かせは共同研究者との対面による長時間の議論が困難な点である。昨今のコロナの感染状況を鑑みると、共同研究者との議論についても当面の期間はオンラインにならざるを得ない。オンラインでの議論も可能ではあるが、対面に比べるとリアルタイムでやりとりをする際にかなり伝達効率が落ちる。今のコロナの状況が続くようであれば、この点を改善することは必須である。現時点では情報を過不足なく伝える議論を円滑化するアプリや必要な電子機器の導入を検討し、予算をそちらに振り分けることを計画している。
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Causes of Carryover |
コロナ禍の影響が予想外に大きく長期化したため共同研究の進行において特に支障が生じた。 今後も予断を許さない状況ではあるが、翌年度分において主として共同研究者とのコミュニケーションの促進のために使用したいと考えている。
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