2020 Fiscal Year Research-status Report
Thermoelectric and thermomagnetic effect due to thermal phonon current: Clarification of beyond Boltzmann
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20K03802
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
松浦 弘泰 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 助教 (40596607)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
高橋 英史 大阪大学, 基礎工学研究科, 助教 (50748473)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 極性フォノン / 極性金属 / MoTe2 / フォノンドラッグ |
Outline of Annual Research Achievements |
フォノンの熱流に起因した熱電・熱磁気効果の研究に関して、初年度は1)MoTe2でのゼーベック係数の符号反転の理論:極性フォノンドラッグ機構、2) 新たな極性-非極性構造相転移を持つ単結晶の合成に挑戦し以下の結果を得た。 1)極性金属として近年注目されているMoTe2は低温でゼーベック係数の符号反転が現れるが、この符号反転の起源は明らかにされていなかった。そこで、研究代表者は分担者と協力し、MoTe2の低エネルギーに存在する極性フォノンと電子との相互作用によるフォノンドラッグ機構「極性フォノンドラッグ機構」をザイマンの変分法を用いて構築し、その機構によるゼーベック効果を研究した。その結果, 極性フォノンドラッグ機構のウムクラッププロセスによりゼーベック係数の符号反転が理解できることを明らかにした。 2)上記で挙げたMoTe2は圧力下で極性-非極性構造相転移の不安定性があり、この構造不安定性に起因した特異な熱電効果が発現する。特に転移温度を抑制した場合には、転移温度が消失した近傍で高い熱電性能が実現する。そこで、MoTe2と同様な極性―非極性構造相転移が内包する新物質探索を行った。その結果、400Kで極性-非極性構造相転移を持ち、さらに元素置換することでこの相転移温度が抑制できる材料を新たに合成することに成功した。
また、フォノンの熱流に起因した熱電研究と関連して、A)パラマグノンドラッグ機構による熱電応答の理論、B)エキシトニック絶縁体の熱伝導度の理論的研究、C)磁性を持つ材料でのスピンとフォノン結合系の新物質探索を行った。特に、B)では、エキシトニック絶縁体の熱伝導度には、Sommerfeld-Bethe関係式に含まれない寄与が存在することを明らかにした。また、C)では、スピンフラストレーションに起因した特異ならせん磁性相を持つ材料の合成に成功した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究実施計画に従って、本年度は、1)世界的に研究の進展が著しい極性金属MoTe2の熱電効果の研究、2)極性-非極性構造相転移を持つ新物質の単結晶合成を行った。 1)MoTe2でみられる特異な熱電効果の起源は、当初の研究計画で予想していたように電子格子相互作用によるものであることが分かった。しかし、この特異な熱電効果の理解には、電子格子相互作用の中でも、極性フォノンと電子との相互作用による「極性フォノンドラッグ効果」が重要であることがわかった。この起源は当初予想していたものと異なり、さらに非従来型の熱電機構のため、大きな成果となった。また、ザイマンの変分法による解析を行うことで、ボルツマン方程式で捉えることができる熱電効果の理論範囲を明らかにできた点も大きな成果である。 2)に関しては、極性-非極性構造相転移の不安定性を内包する新物質の合成を試みることができた。研究実績の概要で述べたように、400Kで極性-非極性構造相転移を持ち、さらに元素置換することでこの相転移温度が抑制できる材料を新たに合成することに成功した。構造相転移付近での特異な熱電効果が期待される。さらに、スピンとフォノンが結合した新材料開発の観点から、特異ならせん磁性相を持つ材料の合成にも成功した。 以上から、おおむね順調に進展していると評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究成果から、MoTe2でのフォノンに起因した熱電効果をボルツマン方程式の範囲で理解できた。今後は、久保-Luttingerの線形応答理論を用い、微視的に熱電効果の議論を進める。とくに、極性フォノンと電子による極性フォノンドラッグ効果等をファインマンダイアグラムを用いて記述し解析することで、ボルツマン方程式で捉えることができる効果と微視的理論を展開することで初めて理解できる効果(beyond Boltzmann)を明らかにすることを目指す。さらに、MoTe2における熱磁気効果の研究も代表者と分担者が協力し、実験・理論の両方の点から研究を遂行する予定である。 また、研究実績の概要で述べたように、これまでの研究で極性-非極性構造相転移の不安定性を内包する単結晶の合成に成功している。しかし、今のところ合成時に使用するフラックスの完全な除去には成功しておらず、特に輸送現象において低温でフラックスによる影響が観測され、低温熱電物性の正確な測定はできていない。そこで、フラックス除去方法を確立し、低温での正確な熱電物性測定を試みる。さらに極性-非極性構造相転移が生じる単結晶において、低温極性構造の精密な結晶構造解析は行われておらず、また相転移の起源は明らかになっていない。そこで単結晶構造解析とラマン分光測定を行う予定である。
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Causes of Carryover |
2020年度はコロナウイルス蔓延の影響により国際・国内会議が開催されず、当初予定していた旅費・会議参加費の使用が無くなり次年度使用額が生じた。次年度使用額は消耗品であるノートパソコンやコピー機等の周辺機器の購入に用いる予定である。また、2021年度も20年度と同様に国際会議への参加が少なくなることを想定し、旅費・会議参加費等に用いる予定であった予算を分担者(高橋)の分担金とし、実験設備の維持費等に用いることにした。
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Research Products
(6 results)