2020 Fiscal Year Research-status Report
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20K03811
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
辻 直人 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 准教授 (90647752)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 非平衡 / 時間結晶 / 超伝導 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、固体中での時間結晶の実現、およびそれを用いたレーザー周波数の下方変換技術の開発に向けて、非平衡動的平均場理論を用いた解析を行った。まず初めに、解析が容易な電子系のモデルとしてファリコフ・キンボール(FK)模型を扱った。この模型は、非平衡動的平均場理論の枠組みで相互作用する多体電子系のダイナミクスを数値的に厳密に解析できることが知られている。FK模型に周期的な振動電場を加えたときのダイナミクスを計算したところ、モット絶縁体相において駆動電場とは異なる周波数で振動する電流成分が存在することがわかった。特に、振動電場の周波数よりも低い周波数の電流が発生する場合があることを見出した。通常の(非)線形応答理論では、駆動電場と同じ周波数もしくはその整数倍の周波数の応答しか現れないので、従来の外場に関する摂動論では理解することができない新しい現象である可能性がある。 関連するテーマとして、時間に周期的な光電場によって駆動された超伝導体におけるヒッグスモードの解析を行った。特に振動電場の周波数の2倍が超伝導ギャップに一致するときにヒッグスモードと共鳴し巨大な三次高調波が発生することが知られている。第一原理計算によりNbN超伝導体に対して三次高調波の偏光角度依存性を解析した。その結果、不純物散乱が支配的になるとヒッグスモードの寄与は等方的になり、準粒子の寄与は角度依存性を残す。実験結果と比較することで、三次高調波に対するヒッグスモードの寄与が準粒子に比べて優勢であることがわかった。また、超伝導転移温度以上において時間的に周期的なパルス電場によって駆動された時の超伝導ゆらぎのダイナミクスを時間依存ギンツブルグ・ランダウ方程式を用いて解析した。その結果、パルス電場で駆動されると超伝導ゆらぎが周期的に抑制される一方、誘起される電流は時間的に反周期的に振動することがわかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の予定通り、非平衡動的平均場理論を用いてファリコフ・キンボール模型のダイナミクスを解析することができた。特に、外部から加えた振動電場の周波数よりも低い周波数でコヒーレントに振動する電流成分を見出すことができたのは一定の成果と言える。この現象を用いることで、レーザー周波数の下方変換技術に応用できる可能性がある。課題としては、まだ少数のパラメーターでしか計算を行っていないので、電子間相互作用の大きさ、電場の周波数、振幅に対する条件が明らかではない点である。また、解析はファリコフ・キンボール模型に限られているので、ハバード模型などより一般の模型でどれほど一般的に見られる現象かを検証する必要がある。一方で、当初計画していた非対称パルスのトレインを用いた分数調波光の発生方法については、電子分布が大きく変化することに伴う温度上昇の効果が大きく、分数調波光の発生は今のところ確認されていない。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の推進方策としては、以下のように考えている。まず、ファリコフ・キンボール模型の範囲で振動電場の周波数よりも低い周波数の振動電流が発生するパラメーター領域を明らかにする。特に電子間相互作用の大きさ、電場の周波数、振幅に対する条件を特定する。モット絶縁体相に限って発生する現象なのか、金属相でも起こる現象なのかを明らかにする。次に模型依存性を見るために、振動電場によって駆動されたハバード模型のダイナミクスの解析を行う。ハバード模型の場合は非平衡動的平均場理論を用いても厳密に解析することはできない。そのため、反復摂動論や非交差近似を用いた不純物ソルバーを相補的に使うことで、非平衡動的平均場理論に基づいた解析を進める。ファリコフ・キンボール模型と同様に、振動電場の周波数よりも低い周波数の振動電流が発生するかを確かめる。その後、時間結晶との関係や周波数のずれに対する安定性について検討を行う。
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Causes of Carryover |
本年度はコロナ禍により予定していた研究会の出張が取りやめになったため、旅費をほとんど支出しなかった。そのかわり、所属が変わったことに伴い計算機の移設のための費用を支出した。次年度は計算機関連の備品を整備するために予算を支出する予定である。
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Research Products
(13 results)