2020 Fiscal Year Research-status Report
Exploration of huge thermoelectric response in the quantum Hall systems
Project/Area Number |
20K03817
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
遠藤 彰 東京大学, 物性研究所, 助教 (20260515)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 熱電効果 / 量子ホール系 / 熱伝導率 / 2次元電子系 / 整合性磁気抵抗振動 / 3オメガ法 |
Outline of Annual Research Achievements |
熱電応答の指標である無次元性能指数ZTを求めるためには、熱起電力、電気伝導率に加え熱伝導率の測定が必要となる。本年度は、バルク試料の熱伝導率測定に用いられている「3ω法」を「量子ホール系」へ適用することを試みた。3オメガ法では、抵抗の3倍高調波成分をロックイン・アンプを用いて測定することにより、ジュール加熱に起因する電子温度の上昇を検出する。本研究では、磁場下の2次元電子系(量子ホール系)のShubnikov-de Haas振動振幅の3倍高調波成分を測定・解析することにより温度上昇を導出した。さらに、電子温度上昇はジュール加熱により流入するエネルギー、電子-フォノン相互作用により基板に吸収されるエネルギー、2次元電子系自体の熱伝導により電極へ流失する熱流により決定されることを考慮し、2次元電子系の熱伝導率を導出した。Wiedemann-Franz則により電気伝導率から推測される熱伝導率と整合する値が得られた。 また、量子ホール系に1次元周期的ポテンシャル変調を加えた「1次元平面超格子」の熱起電力に見られる「整合性磁気振動」の研究を進めた。熱起電力はモットの関係式を通じて電気伝導率、抵抗率と関係している。熱起電力の整合性磁気振動の異方性を理解するためには、ホール抵抗の整合性磁気抵抗振動の有無が重要な役割を果たしていることに気付き、その検出を試みた。ホール抵抗の整合性磁気抵抗振動は、数kΩのバックグラウンド上にのる1Ω程度以下の微小な振動であるため、その存在は30年程前に理論的に予言されていたものの、これまでに実験的な報告例は無かった。本研究では周期的変調の影響のみを効果的に抽出する差分検出の手法により、この検出に成功した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
熱伝導率測定手法として採用を予定していた3オメガ法が、実際に量子ホール系の熱伝導率測定に有用であることを明らかにすることが出来た。3オメガ測定は高磁場領域まで行っているが、今年度の解析はShubnikov-de Haas振動が見られる比較的低磁場の領域で留まっている。高磁場領域は量子ホールエッジ状態の影響もあり、同手法での解析が容易ではないことも判明し、今後への課題も残した。 当初は予定していなかったが、ホール抵抗での整合性磁気抵抗振動の熱電効果への重大な影響に気づき、その観測に成功したことは、本研究の進捗に有用な寄与していると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
熱伝導率の測定を、量子ホール効果が明瞭に現れる数テスラ以上の高磁場領域に拡張して行く。3オメガ法で測定したデータの高磁場領域での有効な解析法を模索する。また、量子ホールエッジ状態の影響を排した、コルビノ型試料の作製、および、熱伝導率の測定にも取り組んで行く。3オメガ法に加え、非接触で温度を測定する方法等、新たな電子温度測定法の開拓にも取り組む。コルビノ型試料の熱起電力の測定は、高周波加熱を用いた独自の手法を用いて数年前に成功しているが、極低温・高磁場下の量子ホール状態にて抵抗が完全にゼロになってしまう領域では、この手法では加熱・温度勾配導入が難しくなる、という課題も判明している。本研究では、外部ヒーターやオーミックコンタクトをヒーターとして用いる手法等、新たな温度勾配導入法の開拓にも取り組む。
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Causes of Carryover |
2020年7月にドイツでの開催が予定されていた2次元系の国際会議(EP2DS)への参加を予定していたが、新型コロナ感染拡大のため会議は中止になってしまった。会議への参加登録費、旅費として準備していた金額が次年度使用額となった。今年度の同様の会議への参加登録料、あるいは、現地開催が行われる場合には、旅費として有効に活用する。
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Research Products
(1 results)