2021 Fiscal Year Research-status Report
NMR studies of novel quantum states in spni-orbit coupled Re oxides
Project/Area Number |
20K03829
|
Research Institution | High Energy Accelerator Research Organization |
Principal Investigator |
瀧川 仁 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 物質構造科学研究所, 協力研究員 (10179575)
|
Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
|
Keywords | スピン軌道強結合系 / レニウム酸化物 / 核磁気共鳴 / 多極子秩序 |
Outline of Annual Research Achievements |
昨年度に引き続き、空間反転対称性を破る2段の相転移を示す5d電子系パイロクロア酸化物Cd2Re2O7対する核磁気共鳴実験を行った。これまで高温側Ts1=203Kにおける相転移は2次転移、低温側Ts2=110Kの相転移は1次転移だと考えられていたが、[001]方向の磁場下におけるカドミウム(Cd)原子核のNMRスペクトルの温度依存性をTs2近傍で詳細に調べたところ、115Kから100Kの間に中間相が存在し、この相は高温または低温の2相といずれも2次転移で接していることが判明した。さらに、中間相でのNMR共鳴線の数が3本であるのに対し、高温相・低温相ではいずれも2本であることから、電子系の対称性が高温相・低温相では正方晶であるが、中間相では直方晶であることが結論された。このことは、電子系の対称性が温度の低下とともに一度低下した後に再び高対称な状態に戻るという、極めて珍しい現象を意味している。 Cd2Re2O7における相転移の起源として、スピン軌道結合が強い5d電子系が自発的に反転対称性を破ることによって、フェルミ面のスピン分裂を引き起こすという機構が理論的に提案されている。このようなスピン分裂が存在すれば、電流印加によってスピン磁化が変化することが期待される。これを検証するために、結晶の(111)面内のパルス状の電流印加により、Cd原子核の共鳴周波数(局所磁場)が変化するかどうか検証した。結果は実験誤差範囲内で有意な変化を認めることはできなかった、ただしこの実験で得られたNMRスペクトルは以前の結果より幅が広くなっており、試料の質に問題がある可能性がある。今後より質の高い試料で再実験が望まれる。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
Cd2Re2O7について:点群対称性に基づくNMRシフトテンソルの解析法を開発し、Cdサイトの結果に応用した。酸素サイトのNMRスペクトルに対しても同様な解析が進行中であるが、Cdサイトに比べて遥にスペクトルが複雑なので、今後も共鳴線の帰属のための測定を継続する必要がある。またパリティの揺らぎを検証するために、酸素サイトの核磁気緩和率の測定を開始した。 Ba2MgReO6について:酸素サイトのNMRスペクトルの温度・磁場方位依存性を詳細に測定し、多極子秩序によるNMRスペクトルの分裂から、電場勾配および超微細磁場を実験的に決定した。Re(5d)―O(2p)混成軌道モデルによって、磁気双極子、電気四極子、および磁気八極子の多極子成分をパラメータとした電場勾配と超微細磁場の定式化を行い、実験データを定量的に解析することにより、多極子成分の殆ど全ての値を実験的に決定することに成功した。この結果を理論的に説明できるか、理論家との協同研究を進める予定であったが、現在までのことろ目立った進展はない。
|
Strategy for Future Research Activity |
Cd2Re2O7について:電流誘起効果を検証するために、質の良い単結晶試料を用いてパルス電流下のNMR測定をCdサイトおよび酸素サイトに対して行う。酸素サイトの核磁気緩和率の詳細な測定を継続し、相転移温度近傍におけるパリティの揺らぎの効果を検証する。 Ba2MgReO6について:NMRによって決定された基底状態の多極子成分の結果が、有効角運動量Jeff=3/2に基づく理論モデルによってどこまで定量的に再現できるか、理論家との共同研究を進める。
|
Causes of Carryover |
Cd2Re2O7における電流誘起効果を検証する実験で期待した結果が得られず、試料の改善の後に再実験が必要となったため。再実験は次年度使用額を翌年度分の助成金を合わせた経費によって行う予定である。
|
Research Products
(5 results)