2020 Fiscal Year Research-status Report
固体ヘリウムを用いたトポロジカル欠陥のダイナミクスに関する実験的研究
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20K03839
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Research Institution | Ashikaga University |
Principal Investigator |
高橋 大輔 足利大学, 工学部, 教授 (80415215)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 量子固体 / 転位 / 低温技術 |
Outline of Annual Research Achievements |
トポロジカル欠陥としての転位の動的性質は結晶・非結晶体の多くでマクロな物性変化の核心的駆動体となる可能性が示唆されている。固体ヘリウム4は素性の知れた同位体であるヘリウム3原子のみを不純物として含むため,転位の動的性質を議論することが他の系に比べ容易であるといえる。 現在,固体ヘリウム4弾性率の極低温下における弾性率変化の一般的解釈は,固体ヘリウム4内の転位に対して,同位体不純物であるへリウム3がピン止めされることで,転位運動が抑制されることが主たるメカニズムだとされている。一方,申請者らは,臨界せん断応力(ピン止め保持力に対応)を印加し,転位がヘリウム3に対し自由になった状態の固体ヘリウム4に僅かな圧縮応力を加えると,せん断弾性率が増大する様子を観測した。この変化は,現状の解釈では説明が難しい。申請者は左記の結果が,圧縮応力により転位の未知のダイナミクスが誘起された可能性を示唆すると考えている。これを基に,本研究では,圧縮応力下のせん断弾性率測定を実施することで,既存の転位運動論の妥当性を検証し,制限空間内のトポロジカル欠陥の動的性質解明に一石を投じることを目的として計画された。 令和2年度は,当該研究遂行のための研究準備として,(1)せん断弾性率測定措置の設計・開発,および(2)極低温環境の整備を主眼として研究をスタートした。(1)に関しては,せん断弾性率装置の設計(図面作成,有限要素法による解析)が終了した。(2)に関しては,実験用信号線の整備,また,極低温生成時に必須となる輻射シールド管,GM冷凍機と極低温環境をリンクするための適切な熱アンカーの設計・整備が終了している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
令和2年度実施計画は「弾性率測定装置の設計・開発」および,「極低温環境の整備」であった。以下に各計画の進捗状況を述べる。 弾性率測定装置の設計・開発:本研究では試料容器内に用意する直方体状固体ヘリウム4試料に対し,xy平面に垂直に圧縮応力を印加した状態で,xz平面に対し平行にピエゾ素子を用いてせん断力を印加し,この応答を観測することで,圧縮応力下のせん断弾性率を測定することを計画している。令和2年度は有限要素法も取り入れた装置の設計を完了させた。一方で,研究実施に必要な試料容器の加工が未実施のままである。 極低温環境の整備:令和2年度に計画していた測定用信号線の設置に関しては概ね完了している。また,極低温生成に必要な輻射シールド,熱アンカー等の必要部品は設計・製作が完了している。一方で,冷凍機の主要部品である液体ヘリウム4蒸留器(1Kポット)に大きな問題が発生しているため,これを速やかに整備する必要がある。 上述の通り,当該期間の研究進捗状況は,当初の計画に対して概ね50% の達成となっており,当該研究申請時の計画からは遅れが生じている。これは,コロナ禍における授業を含めた校務遂行のための準備負担による当該研究に対するエフォートの減少,および緊急事態制限での外部工作委託業者の活動縮小等の影響が大きい。当該研究期間内にコロナウイルス禍における現状が改善されない場合は,当初研究計画の変更を適宜おこないつつ,慎重かつ適切な研究計画遂行に努めたい。
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Strategy for Future Research Activity |
令和3年度の当初計画は極低温環境下での実験装置のリークテストを含めた動作確認,また,ピエゾ素子のクロストーク測定などの固体ヘリウム試料測定前の準備の完了であったが,上述の通り,研究計画の遅延からこれは難しいと判断される。よって,現状の情勢下において研究を遂行するにあたり,以下のように研究計画を遂行する予定である。 令和3年度:測定用試料容器の整備の完了と,室温下におけるリークテストを含めた動作確認。極低温環境生成のために必要な3Heガスを液化するためのジュール・トムソン弁周辺環境の整備。 令和4年度以降:(令和4年度中)1K程度の低温環境下における試料容器の各種試験の実施。(令和4年度後半)極低温環境の運用開始。(令和5年度)固体ヘリウムを用いたせん断弾性率測定の実施と結果の検討である。 当初計画においても,申請者の当初エフォートを勘案し,時間的余裕を持った研究計画を申請していたが,現状における主要な変更は前年度および今年度の計画内容がおおむね半期程度後退している点である。今年度以降は研究環境を適切に整えつつ,事業完了を目指す所存です。
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Causes of Carryover |
次年度使用額は,令和2年度に予定していた研究計画の遅延に伴い生じた。また,当初計画していた国際会議出張経費等が本状況下で執行できなかった点も理由としてあげられる。次年度使用金額これを含めた翌年度請求助成金を含めた使用に関して以下を計画している。 ①研究実施に必要な環境整備としてのワークステーションの導入費用に20万円,実験に必要な部品加工費に15万円,③試料容器等製作後,測定に関わり購入する直流電圧・電流源に30万円,④研究に使用するヘリウムガス購入費に10万円,⑤周辺環境整備に必要な金属・電子・真空部品等消耗品の購入に30万円。以上である。
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Research Products
(1 results)