2021 Fiscal Year Research-status Report
円偏光照射による電子系のスピン偏極とスピン依存シフト電流の理論
Project/Area Number |
20K03841
|
Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
田中 康寛 早稲田大学, 理工学術院, 講師(任期付) (50541801)
|
Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
|
Keywords | 光誘起相転移 / 円偏光 / シフト電流 |
Outline of Annual Research Achievements |
フェルミ準位近傍にディラック型分散を持つ有機導体α-(BEDT-TTF)2I3を対象に、様々な光誘起相転移について調べた。具体的には、相互作用がない模型を用いて、いくつかの新しい光誘起相転移の出現可能性を理論的に提案した。まず、円偏光照射下におけるトポロジカル相転移について、時間依存シュレディンガー方程式を用いた時間発展計算を行い、得られたチャーン数やホール伝導度の時間変化の結果をフロケ理論による先行研究と比較しながら解析した。また、フロケ理論を用いて、楕円偏光照射下での様々なトポロジカル相転移の理論や、直線偏光照射下で生じるディラック点の対消滅に関する理論予測を行った。 さらに、相互作用を考慮した拡張ハバードモデルを用いた時間依存ハートリーフォック計算にも着手した。そこでは、電荷秩序の基底状態から出発し、光強度の増加に伴って電荷秩序の融解、光誘起ディラック状態の出現、さらにはフロケチャーン絶縁体の出現と二段階の転移が生じることが分かった。この結果は、相互作用がディラック分散にギャップを開ける効果、光で電荷秩序が融解することによってギャップが閉じる効果、および円偏光によってディラック点にトポロジカルギャップが生じる効果が絡み合って生じる新規な光誘起相転移であると考えられる。電荷秩序状態では空間反転対称性が敗れることから、この相転移がホール伝導度だけでなく、シフト電流で検出できる可能性について議論した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の開始当初は、スピン軌道相互作用が強い系を念頭に、円偏光照射で生じるシフト電流生成の研究を進める予定であった。しかし最近の研究で、有機導体α-(BEDT-TTF)2I3を対象とした円偏光照射による光誘起相転移において様々な新しい現象が期待できることが分かってきた。その結果については、すでに複数の論文を2021年度に出版している。特に、この物質の電荷秩序は空間反転対称性を破るタイプのものであるため、シフト電流を光で制御できる可能性がある。これを踏まえ、まずスピン軌道相互作用の弱い系であるα-(BEDT-TTF)2I3において、円偏光誘起相転移の全貌解明と、その観測プローブとしてのシフト電流の役割について明らかにすることを目指して研究を行っている。
|
Strategy for Future Research Activity |
相互作用を持つ拡張ハバード模型を用いて、円偏光照射下での時間発展計算を行い、最近我々が発見した光誘起相転移に伴うホール伝導度とシフト電流の振る舞いを調べる。特に、この系の基底状態では電荷秩序によって空間反転対称性が破れているため、光照射による電荷秩序の融解とトポロジカル状態の生成過程をシフト電流によって検出できる可能性がある。この点について、実際に計算を行って明らかにしたい。
|
Causes of Carryover |
コロナ禍により旅費の使用がなくなったこと、および計算機室の電力確保ができなかったことによって計算機購入が持ち越されたことが主な原因である。今年度は居室に置けるタイプの計算機を購入し、さらなる計算を進める予定である。
|
Research Products
(7 results)