2020 Fiscal Year Research-status Report
軌道自由度がもたらす銅酸化物高温超伝導体の新展開の理論
Project/Area Number |
20K03847
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
渡部 洋 立命館大学, 総合科学技術研究機構, 専門研究員 (50571238)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 銅酸化物高温超伝導体 / 軌道自由度 / 強相関電子系 / 変分モンテカルロ法 |
Outline of Annual Research Achievements |
令和2年度は、銅酸化物高温超伝導体の諸物性の物質依存性に関する理論研究を行った。単層系の典型例であるLa_{2}CuO_{4}とHgBa_{2}CuO_{4}(以下ではLa系、Hg系と略記)に対して第一原理計算を行い、得られたバンド構造を再現する4バンドd-p模型を構築した。これらの模型に対して変分モンテカルロ法を適用し、様々なパラメータ空間における基底状態の性質を詳細に調べた。その結果、適切なクーロン相互作用パラメータの下ではホールドープ量δに対して超伝導相関関数がドーム型となり、La系に比べてHg系の方が遥かに高い値を示した。これはHg系の転移温度がLa系に比べて3倍近く高い事実と整合している。バンド構造と運動量分布関数に対する詳しい解析の結果、超伝導の物質依存性においてフェルミエネルギー付近でのdz^2軌道の寄与(すなわちdz^2軌道のエネルギー準位ε_{z^2})とd_{x^2-y^2}軌道とp軌道間のエネルギー差Δ_{dp}の二者が重要なパラメータであることを見出した。これは以前から経験的に知られていた規則(前川プロットなど)とも整合しており、微視的なモデルから経験則を正当化したことになる。また、これまであまり指摘されてこなかった隣り合うd軌道間のクーロン相互作用が超伝導の安定性や他の相との競合に重要な役割を果たすことを示した。従来用いられてきた単一軌道ハバード模型や3バンドd-p模型からは物質依存性を十分には説明できなかったため、本研究の成果は銅酸化物高温超伝導体の統一的な理解に大きく貢献すると期待される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
目標だった銅酸化物高温超伝導体の超伝導転移温度の物質依存性を説明するのに十分な結果が得られたため、おおむね順調に進展していると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
超伝導に対する記述には成功したものの、それと競合する反強磁性やストライプ相との関連は不明な点が多く、エネルギー比較も不十分な状態である。今後は計算に用いる試行波動関数の改良を通じて、超伝導・磁性・ストライプ(電荷秩序)・ネマティック状態といった複数の状態間の競合を適切に記述し、個々の発現機構や相互関係を明らかにすることを目指す。
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Causes of Carryover |
世界的なコロナウイルスの感染拡大により、参加予定だった国際会議・国内会議のほぼ全てが中止あるいはオンライン開催となり、参加費や旅費の未使用額が発生した。また、在宅勤務により所属研究室に設置予定だった計算用クラスターマシンの購入を見送ったため未使用額が発生した。これらの未使用額により次年度使用額が生じた。 次年度はコロナウイルスの状況も鑑みつつ、計算用クラスターマシンの購入と国内出張の旅費としての執行を計画している。
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