2021 Fiscal Year Research-status Report
異方的な物性応答を利用した磁気多極子ドメインの制御
Project/Area Number |
20K03853
|
Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
阿部 伸行 日本大学, 文理学部, 准教授 (70582005)
|
Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
|
Keywords | マルチフェロイクス / 方向二色性 / ドメイン |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では対称性の複合的な破れに伴う新しい物性応答の起源としての奇パリティ磁気多極子秩序に着目し、その新しい物性をマクロな物性応答として検出することを目的とする。その実現のため、奇パリティ磁気多極子ドメインの可視化と、異方的な物性応答を利用したドメイン制御の2点について研究を進める。2021年度の成果として(1)MnTiO3における方向二色性を利用したドメインダイナミクスについての研究と(2)有機無機ハイブリッドペロブスカイトにおける方向二色性の発見が挙げられる。 (1)前年度に原著論文として報告したMnTiO3における方向二色性を利用した反強磁性ドメインのダイナミクスの観察について、新たに原著論文として報告した。MnTiO3の磁気秩序温度近傍では、電場を印加することによって電気分極が反転することに伴い、反強磁性ドメインを制御することができる。電場印加に伴うドメイン変化をパルス電場の時間幅を変化させつつ方向二色性を利用した磁気イメージングによって観測することで、MnTiO3における反強磁性ドメインのダイナミクスを明らかにした。(2)有機・無機ハイブリッドペロブスカイト系化合物は、比較的低温かつ簡便なプロセスでの合成が可能でありながら、優れた太陽電池材料としての光学特性を示す。一方でこれまでは磁性を持たない化合物のみに限定されて研究が行われていたが、本研究によってキラル分子を用いて反転心を持たない磁石の材料設計に成功し、方向二色性を発現させることに成功した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
現状ではいくつかの物質について方向二色性が発現することを報告しており、また電場印加によるドメインダイナミクスの検出についても報告していることから、概ね順調に進んでいる。また、まだ成果としては現れていないが、現状では(1)一軸圧印加セルの開発、(2)ダイナミクス検出のための光学系の構築、(3)新物質の探索と合成、の3点についても研究が進んでいる。(1)一軸圧印加セルの開発については、偏光顕微鏡に設置した冷凍機に取り付ける圧電素子を使用した一軸加圧セルの設計と工作が進んでおり、一軸圧印加下でのイメージング測定を行う環境が整ってきている。(2)ダイナミクス検出のための光学系の構築については、今年度の研究費により16bitCMOSカメラを導入したことで、イメージングの感度の向上と計測時間の短縮化を図り、ダイナミクスの観測に適した光学系の構築を進めている。現状では低温かつ磁場および電場印加下での光反射スペクトルおよびイメージングの光学系を試作し、マルチフェロイクスなどの光学特性の研究を進めている。(3)新物質の探索と合成については、外部での実験が行えるようになってきていることから、物質合成や物性評価を東京大学物性研究所において進めている。
|
Strategy for Future Research Activity |
進捗状況で述べた現状で進んでいる3点の研究について今後の研究推進方策をまとめる。(1)一軸圧印加セルの開発については、実際に作成したセルを用いて一軸圧印加下でのイメージング測定を行う。具体的にはAサイト秩序型ダブルペロブスカイトマンガン酸化物やコバルト酸化物を対象として、一軸圧印加下での電気抵抗測定とイメージングを組み合わせた実験を行う。これらの物質では金属絶縁体転移や構造相転移が比較的室温付近で生じることから、今回の測定系での観測に適した物質系であり、かつ大きな応答が期待できる。(2)ダイナミクス検出のための光学系の構築については、マルチフェロイクスである(MnCo)4Nb2O9などを対象とした透過配置での光学応答の観測を行い、ドメインの観測とドメインダイナミクスの研究を進める。(MnCo)4Nb2O9はMnとCoの組成によって磁気転移温度を調節することができるため、本研究で用いる冷凍機に適した磁気転移温度を持つ組成の単結晶試料について、薄片化して光吸収スペクトルの測定やイメージング測定を行う。(3)新物質の探索と合成については、電気磁気光学応答を示す新規物質の探索と単結晶合成を進める。特に発光の非対称性を示すような物質の探索を進める予定である。
|
Causes of Carryover |
新型コロナウイルス感染症の感染拡大により日本物理学会の年次大会などがオンライン開催になったこと、および外部施設への出張実験が困難になったことにより、主に旅費について未使用分が発生した。次年度では対面型での学会の開催が増える予定であり、また外部施設での実験受け入れも再開されたことから、次年度での旅費および実験実施に伴う実験消耗品の購入に使用する予定である。
|
Research Products
(5 results)