2020 Fiscal Year Research-status Report
Quantum Theory of Chiral helimagnets
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20K03855
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
加藤 雄介 東京大学, 大学院総合文化研究科, 教授 (20261547)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | カイラル磁性体 / カイラルソリトン / 磁化過程 / ハルデイン問題 / 準位交差 |
Outline of Annual Research Achievements |
カイラル磁性体は、平衡状態において磁気構造(磁気モーメント、スピン)が空間的にらせん構造を取る磁性体である。そのらせん構造の外部磁場に対する依存性は、ジャロシンスキーによって見出された特異な連続相転移を伴うものである。これまで古典スピン模型を用いて解析され、また実験結果と比較されてきたこの現象の量子性について本研究では厳密対角化法などの数値的手法と保存量に関する考察、解析的な近似計算によって明らかにした。主な成果として、有限系量子スピン模型において半奇整数スピンと整数スピンで磁化過程において定性的な違いがあることを見出した。半奇整数スピン系では磁化過程とともに基底状態が結晶運動量がゼロの状態からπの状態に不連続に変化する準位交差が起き、整数スピン系では基底状態の結晶運動量は常にゼロであり、磁化過程は連続的(準位反発型)である。このような半奇整数スピン系と整数スピン系での定性的な違いは、S=1の反強磁性スピン鎖におけるハルデイン問題として80年代、90年代に幅広く研究され、量子スピン液体状態の代表例として位置づけられているが、カイラル磁性体における顕著な量子効果については(研究代表者が知る限り)これまでに報告がないという点において新規性と重要性が認められる。また準位交差型の磁化過程は古典スピン系でも見出されていたが、古典系ではらせん磁気構造の巻き数というトポロジカル数によって基底状態が特徴づけられているために自然に理解できるのに対して、量子系ではらせん構造の巻き数がハミルトニアンと一般には非可換なために準位を特徴づける量子数が結晶運動量の保存性によって支えられている。その点にも古典系との違いが認められる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
有限系量子カイラル磁性体において半奇整数スピンと整数スピンで磁化過程において定性的な違いがあることを見出したことは予想を超えた重要な発見である一方、成果の発表状況は遅れているために、おおむね順調というのが妥当な評価であろう。
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Strategy for Future Research Activity |
有限系量子カイラル磁性体において半奇整数スピンと整数スピンで磁化過程において定性的な違いがあることの理由を理論的に解明する。また熱力学極限での振る舞いを密度行列繰りこみ群の手法により明らかにする。らせんの巻き数が保存量でない量子系におけるソリトン概念の構築とそのダイナミクスの解明を解析計算により目指す。
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Causes of Carryover |
2020年度におけるコロナ禍での活動制限のために研究が半年ほど遅れた影響である。当初予定していた計算機サーバーの購入を2021年度に行う予定である。
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