2020 Fiscal Year Research-status Report
Study of Suction vortex formation using superfluid Helium-4
Project/Area Number |
20K03865
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Research Institution | Osaka City University |
Principal Investigator |
小原 顕 大阪市立大学, 大学院理学研究科, 講師 (50347481)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 超流動 / 吸込渦 / 超音波流速計 / パルス管冷凍機 |
Outline of Annual Research Achievements |
令和2年度は超流動吸込渦の研究について,本年度は以下の2点を実施した. 1:パルス管冷凍機を立上た上で1K冷凍機を増設し,性能評価を行った.このパルス管冷凍機は過去に購入したまま未稼働だったもので,最低温度は 2.5 K 冷却能力は 0.9 W であった.これでは目標温度 1.6 K に到達しないため,パルス管冷凍機を液化機とするヘリウム封止循環型の1K 冷凍機を自作した.最低到達温度は 1.5 K であるが,この数値は循環用ポンプの排気能力で下限が決められていることが解っている.そこで,排気能力の高いポンプを組み入れることで,次の試験では 1.2 K 程度までの冷却が実現できる見込みである.これは,申請前の問題点である「サンプルが寒剤を兼ねていたために,時間とともに渦液面が低減する」現象を抑え込むことができるようになったことを意味する.その結果,循環および量子渦糸密度の垂直方向の分布が計測できるようになった. 2:本年度は超流動吸込渦の循環計測について,大きな進展があった.一つ目は近似精度を飛躍的に向上させたことである.これは回転場中の音波伝播の数値シミュレーション法を確立したことよによる.二つ目は流速測定について全自動測定システムを導入したことで,統計量を飛躍的に向上させ,巨視的な循環を高精度で決定できるようになったことである.これにより,吸込渦の巨視的循環とタービン回転数の依存性についての定量的な議論が可能となった.また,短時間で循環測定が終了できるようになったため,同一回転数においても液面の位置によって循環の違いがあることを明らかにすることができた.これは,渦糸の配置を考察する上で重要な発見である.以上の結果と,過去に行われた第2音波実験の再評価データを合わせることで,超流動吸込渦のコア構造に新たな知見を見出した(Phys. Rev. Fluids 誌に投稿中)
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は新型コロナウィルス関連の緊急事態宣言がなされ,実験も大幅に制限されたた.同時に実験に必要なヘリウムの供給源である液化施設や工作技術センターが閉鎖されるなど,実験準備にも大きな制約が課された.そのため,目標としていた1K冷凍機本体と温度計測システムは稼働できたものの,当初予定していた光学観察用窓つきセルの導入には至らなかった.なお,この冷凍機は当初,液面を安定化するためだけに導入するものであったが,緊急事態宣言等で大学の各種施設が閉鎖されたとしても,研究代表者さえ通勤できれば実験を維持できるという意義があることも再発見した. また,第1音波を用いた循環計測法の確立により,吸込渦の循環のタービン回転速度依存性・液面高依存性について定量的な議論が可能となったこと,さらに,最終年度に予定している「タービンの停止後の吸込渦の減衰測定」に関わる循環のリアルタイム測定に成功したことは,想定外の進展である.第2音波の実験については,信号検出までに従来型の冷凍機を用いて多数回の実験を行う必要があり,冒頭に記した実験時間・ヘリウム供給事情による制約を考慮し,今年度はあえて実施しなかった.その代わり,これまでに測定してきたデータの整理および再評価をおこなったところ,超流動吸込渦のコア構造についての新たな知見をえることができた.これを投稿論文1編にまとめ上げ,また,物理学会において量子渦に関する4件の発表を行うことができた. また,超流動吸込渦に対する第2音波の伝播実験は,本学坪田グループの渦糸モデル・シミュレーションによる予言を検証すること,また,この系が擬似的なブラックホールとみなせるとの解釈から,本学石原グループ(宇宙論)との共同研究が始まるなど,研究の裾野が広がりつつある. 以上の理由を総合することにより,「(2)概ね順調に進展している」と評価した.
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Strategy for Future Research Activity |
目標達成のため,まず,1K冷凍機の循環ポンプをより排気量の大きなポンプに交換し,より低温・高冷凍能力を目指す.これに,既に設計済みの実験セルを取り付けることで,申請前に問題視されていた「蒸発による渦液面の低減」を克服した状態で超流動吸込渦の生成を目指す.吸込渦の生成にはこれまでの超伝導ブラシレスモーターの代わりに,室温部からのマグネチックカップリングによるタービン駆動の方法を試みる.これは,ブラシレスモーターの欠点である低速回転における流体の不安定撹拌を改善するためである.測定は光学的手法(渦液面観察)による循環の計測に絞って行う.ただし,ガラス加工,金属加工・溶接等で工作技術センター等の学内施設の支援を必要とするため,社会情勢からみて,研究者本人の努力のみでは遂行することができない可能性がある.したがって,本年度も冷凍機開発・光学測定に並行して,以下の測定を従来型のヘリウム冷凍機を用いて行う: (1)同一のタービン回転数における,巨視的循環の渦液面の高さ依存性,および,吸込穴径依存性の計測:これは,吸込渦中の全循環を量子渦糸の量子化された循環だけで説明する上で,重要な測定になる.この実験は現在のセットアップのまま実験できるため,直ちに行う. (2)吸込渦の液面先端直下での第2音波の測定:第2音波の測定ができるかどうかはセンサーの性能に強く依存することが既に解っており,また,センサーの性能は超流動に冷却するまでわからないという欠点がある.今年度は性能の良いセンサーの製作条件を割り出し,ただちに第2音波測定を行う.第2音波は回転中心を水平に横切る形での定在波共鳴とし,第1音波による巨視的循環測定と組合わせて,またこれを,さまざまな回転数,液面高でおこなうことで,量子渦の空間配置を決定する.
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Causes of Carryover |
当初計画していた研究発表に関わる出張が,社会情勢のために取りやめになったため. 次年度に出張を行えるようになった場合に備え,繰り越したい.次年度に出張を行うことが出来ない場合は,液体窒素代金に充当する.
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